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令和元年7月15日 17時45分 蘭鋳椿偏屈堂店内

 三連休の最終日にもなると、もう前の二日で遊びつくしてしまって、他にすることも無くなってしまったのだろうか。
 普段はそこまでにぎわっている、という訳でもない蘭鋳椿偏屈堂にも、多くの客が訪れていた。

 とは言っても、三連休を楽しむのに必要なものは書籍だけではない。
 古書店の経営者という立場があったとしても、本を読むことを休日の楽しみにしている人間など、清一郎には弟の龍くらいしか思いつかなかった。
 今の時代、他にも面白いものはたくさんあるのだ。それ故に、きちんと本を買うことで、蘭鋳椿偏屈堂に金を落としていく客はそう多い訳ではない、というのが悲しき現実である。

 蘭鋳椿偏屈堂を訪れる客のほとんどはこの近辺に住んでいる客で、特にどの本を買うという訳でもなく、店にある本を眺めたり、手に取ったりして帰っていく。
 一見するとただの冷やかしのようにも見えるが、幼い頃からこの店を知っている清一郎にとっては、昔からの顔なじみである客も多い。言ってしまえば「生存確認」のようなものである。

 平日こそ午後九時まで営業している蘭鋳椿偏屈堂であったが、土日祝日は営業するとしても午後六時には店を閉める、というルールがある。
 これは先代である清一郎の両親が決めたものであった。
 休日は早めに店を閉めて家族でゆっくりと夕食を取ろう、という考えが、徳永家の方針として存在したのである。

 二年前の春、本格的に兄弟で蘭鋳椿偏屈堂を継いでからもこのルールは変えておらず、休日は六時に店を閉めて二人で夕食を作り、食べるようにしていた。
 休日の夜をゆっくり過ごすことで、清一郎も休み明けで会社勤めをしやすく、この方針を定めた両親を尊敬していた。

 三連休の営業時間も残り十五分に差し掛かった頃だった。
 清一郎はこのくらいの時間になると、龍を先に上がらせて、食事の用意に取り掛からせる。
 よほど店が混んでいない限り、二人で店番をしている日はいつもそうだ。
 この日もまた、龍を先に店の奥にある自宅に返すと、清一郎は一人で接客と閉店作業を行うのである。

更新日:2020-02-18 01:04:46

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