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小説

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令和元年7月15日 6時 徳永清一郎・巻龍 自宅

 今日が祝日でよかったと、龍は安心する。自営業と言いつつも、龍は早起きである。
 六時半に兄を起こして朝食を食べさせ、準備をして家を出ていくのを見届けるために、彼はいつも六時には起きなければならないのだ。

 会社に行かない日ぐらい、ゆっくり寝ていても良いのに、と思うのだが、六時半に起きるという清一郎のルーティンは、休日でも関係ない。
 会社に行かなくて良いから、と言って睡眠時間を長くすれば、平日もその睡眠時間に合わせなければならなくなる、というのが、清一郎の持論であった。

 炊飯器の米が炊き上がるアラームが、龍の毎日の目覚まし時計の代わりである。
 しばらくは保温状態にして、味噌汁の準備をする。お湯を沸かしながらネギを刻む。沸騰したらネギとワカメを加えて火が通るまで弱火で煮込む。
 煮込んでいる間に卵二個で卵焼きを作り、半分ずつ皿に盛りつける。彩りとビタミンを補給のために、真っ赤なトマトも切って添えた。

 味噌汁の具材に火が通ったら、味噌を入れて一煮立ち。一杯ずつ黒いお椀によそうと、先程から保温状態のご飯も白い茶碗に盛って、食卓に並べていく。
 この間に、運が良ければ清一郎が目を覚ます。龍の運が悪い場合は、部屋まで行って清一郎を起こす。これが、二人の朝の習慣になっていた。

「おはよう、龍」
「おはよう、兄貴。せや、ちょっと待って」

 どうやら今日は運のいい方だ。休みだというのに、兄の起床は自発的なもので、すこぶる機嫌が良い様子であった。
 挨拶を返すと、龍は冷蔵庫からカップ入りの納豆を二つ取り出して食卓に置き、席に着いた。

「納豆?」

 清一郎の言葉で、龍は綾子と十二年ぶりに暮らし始めたときのことを思い出した。
 ある日、清一郎が買ってきた納豆を、綾子だけが食べなかった。普段から好き嫌いをあまりしない綾子が、たった一つだけ苦手としたのが納豆だった。
 龍が小学生の頃に給食で初めて食べるまで、巻家の食文化の中に納豆が入ってくることはなかったのである。

「健康にええって言うてもなぁ。あたしが小学生の頃は、給食に納豆なんか出えへんかった。それでも、あたしは元気に生きてるやん。だから、食べんでええの」

 スーパーでよく見かける三個入りのパックを買ってきても、綾子はそんなくだらない言い訳をして、納豆に手を付けない。

 結局、この家の食卓に納豆が出ることは無くなった。清一郎が店を継ぐことが決まり、ここに引っ越してきてからは、必然的に二個入りの少し上等なカップの納豆を買うようになった。

更新日:2019-12-02 07:34:27