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小説

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芋虫

「あー、あー。聞こえますか?私です。そう、”私”です。あなたは?」

私に歴史はない。
私がどこで生まれ、どの親の交配の元になり、どこで育ったのか。
その一切の情報が、過去の記憶を現像できないように、忘れられていた。
ただ、気付いてみたら、いや、気付くとに関わらず、ただ”意識”が生まれて、私は私の姿をようやく確認できた。

まず、大きな特徴として、
足が無かった。

そう、”あるはずの”足は、消えていた。太くたくましいイメージのある足。大きな木のように、地面に立つための足は、私にはなかった。

それから、手が異様に小さいのだ。
しかし、この手はぷにぷにとしており、まるで赤子のイメージから連想されたのと同じような…現像されたかのように思えた。

その小さな手で顔を触る。
大方のイメージに従って、”あるはずの”部位を確認するようにしている。幸い顔に損傷はなかったようだ。



そうして自分の体を確認すると、今度は居場所が知りたくなってきた。
私は自分の胴体を見つめる。その下に毛皮があり、私はよくいう布団だのベッドだのの上にいたのだと知る。
そして、かけ布団もある。手触りがとても気持ちいい。

場所を確認すると、今度は自分の目に見える世界の理解に努める。
しかし、私のイメージにある”外”はない。
強いて言えば、これはシェルター…あるいは、簡単に例えて、昆虫の蛹のように思えた。
なにせ、ほとんど先が見えない暗さが、遠く世界を占めており、私の付近以外には、光などない。

してみるに、総合して観察してみた結果、よくわからなかった。
だって、こんなの知らない。こんなイメージ…

私は言葉を発してみようとする。
あのイメージ通りなら私にも喋れるはずだ。
「ぅ………ぁ………ぅ………ぁ」
しかし、うまく発音ができない。どうしてなのか。まったく理由がわからないが、ともかく喋れないことは確実だ。

すると、どうだろう?もしかして、私は、あのイメージにある”殺人事件の人質”とかだったりするのだろうか?
私は、その映像をただ眺めるだけでも中々面白いものだと思っていたが、自分がそんな目に遭うのは、まっぴらだと思う。

けど、それならもうとっくに私は死んでいるはずだ。
そこで、私はこの”意識”の芽生えの前に行われていた”ルーティン”を思い出す。

そうだ。私は、そんな劇の舞台役者じゃない。
”これは最初からこの状態なのだ”



私の”ルーティン”とは何か。
色々説明すると長くなるが、端的にまとめると、私が死なないように生きることになっている。
そのための日常の無意識でもできる、生存のための行動。
それが、”ルーティン”だ。

つまり、食べること・寝ること だ。
働くがあれば、”ウケ?”とやらが良さそうだが、あいにく前に述べたように、私の体では、まともにできることなどない。

しかし、広義の働くと違い、私にも働きというのがある。
それは、データや映像を見ることだ。
私にできるのは、それだけ。
だから、先ほどから言っている”イメージ”とは、これによって得た経験のことだ。

だって、それ以外に言葉を知らない。
だって、体を動かせない。
だって、
だって、
だって、私以外に私がいない。
人 ひ  ひととと ひとひととひと???

人?人?人?
はて?人とは?
私?私とは?

私の知っているイメージの”人”は、”私”と違う。
手足があり、それに枝分かれした指というのがある。
さらに、髪が人それぞれ特徴があり、顔には起伏がある。
そして、何の意味があってか、顔に塗りものをしたりして、自分を飾る。
それだけじゃない。彼らは裸になれないのか、いつも自分の皮膚じゃない何かを纏っている。
裸が映っても薄い布1枚を必ず被せる。
でも、私が知っているイメージの中では、裸の”人”がくっつくのがあるが、あれはよくわからない。なにせ、説明がないからだ。不親切だ。

思えば、私にも”あれ”とやらがあっていいはずだ。と気付く。
いや、”あそこ”か?
確認してみる。これは…どっちだ?どっちとは何か?

さて、そんなことを考えていると、私の瞼は次第に重くなってきて、眠りというフェイズに移る。

これが、私の”ルーティン”
何も疑うこともなく、何も考えることもなく、
ただ必要だからすることばかり。それ以外は、自分からしょいこんだ、ただの刺激なだけ。
これが、私。ひ と  ???

「やぁ、聞こえるかい?」

寝ようという時に話しかけるやつは死刑とやらだ。
これは、話しかけてきたわけではない。
どいういうことか。

これは交信(テレパシー)と言って、これも気付かぬ間に磨かれた、何かである。
これなら、会話だってできるはずだ。

「誰?」
「誰?って、私は私だ。」
「私も私なのだが」
「あ、っそう じゃあね」

え?交信相手が誰かだって?
そんなもの、知らないよ。
イメージがないから。
おやすみ

更新日:2019-06-27 02:50:03