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 それから毎日、ヨハネスは空を見に行くようになりました。毎日違う顔を見せ、時間とともに美しく表情を変える空は、ヨハネスの心を癒してくれるのです。
 憂いはため息となり、潮風と混ざって去っていきます。ゆったりと流れる雲はざわつく胸をなだめ、ひんやりとした夜の空気は、水とは違う冷たさでヨハネスを落ち着かせました。上の世界が与える感覚や光景は、いつしかヨハネスにとってなくてはならない友人になっていました。
 そんな風にして空を眺めたり、海の中を気が済むまで泳ぎ回ったりして日々を過ごしているうち、カレンの十五歳の誕生日がやってきました。カレンは五人の姉姫様たちが上の世界へ行き様々なものを見てくるのをずっと羨んでおり、自分も上の世界を見るのが許される日を待ち望んでおりましたから、カレンが十五歳になったのをヨハネスも嬉しく思いました。
 十五歳になり、一人前の姫君と認められたカレンは、お祖母様から頂いた飾りを身につけ、ますます美しい姿となっていました。柔らかな金の髪の上には、花びらの一枚一枚が薄く切った真珠で作られている白百合の花かんむりが乗せられ、しなやかな魚の尾には高貴な身分の証である大きな貝殻がつけられ、彼女が泳ぐのに合わせてそれらが小さく揺れるのがそれはそれは綺麗に見えました。その他に目立つような飾りはありませんでしたが、カレンの深い青色の瞳はどんな宝石よりも素晴らしい輝きを持っているので、余計な飾りがなくとも十二分に美しいのです。
 しかし、誕生日の夜、上の世界へ上がってから、カレンはどういうわけか物思いにふけることが多くなりました。聞くところによれば、お姉様達にも何を見てきたのかをちっとも話さず、一人で物憂げに上の世界を見上げているということでした。そして不意にどこかへ泳いで行ったかと思うと、しばらくしてため息をつきながら帰ってきて、また塞ぎ込んでしまうのだそうです。
 カレン様は何を見てきたのだろう、とヨハネスは色々想像してみました。海の中のものがみんな退屈に見えるほどに美しいものや楽しいものに触れてきたのだろうか、海の民が近寄れない場所に何か素晴らしいものを見つけたりでもしたのだろうか、それとも・・・。
 ヨハネスはふと、もしかするとカレンは自分と同じように恋をしたのかもしれない、と思いました。だとすれば、相手は誰なんだろう。陸の民はそんなによいものなのだろうか。カレンがさらに遠い存在になったような気がして、ヨハネスはひどく寂しい気分になりました。

更新日:2019-06-26 20:02:55

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