彼女の人生は此れからも此の先も降伏で満たされます。

『はい、メームル。今度の日曜はサーカスを見に行こうね』

『うん、ママ』

『オイ、お前。其処はショッピングモールで買い物だろう』

『欲しい人形ないよ』

『其れは困ったな』

『あ、そうだ。今日はサラマン村で知り合った男の子と会ったよ。少し暗かったけど』

『そうか、例のボーイフレンドの事だね』

『そう言えば隣のサナンちゃんとかリガズ君とかは如何なんだ？』

『リガズ君はあれだし、サナンちゃんは少し甘えん坊だよ』

『メームルだけは言われたくないわ。其れよりも今度の日曜はサーカスだね』

『参ったな、サーカス……』

『あ、そうだ。ねえねえ、サーカスのチケット在る？』

『ひょっとして例の男の子とサーカスでも見に行くの？』

『うん、そうだよ。二つ頂戴！』

『ええ、行って来て頂戴！』

『ところで単独であのエーサク迄行くのか？　大変だろ？』

『大丈夫だって……私、もう子供じゃないから！』

　其れは幸せが約束された人生。其処には最愛の彼の姿も在りました。

『僕は間違っていたんだ。僕がすべきは人殺しじゃない。僕は、みんなを笑顔にするべきなんだ！』

『立ち直って良かったよ、パーム』

『有難う、メームル。此れからは人を喜ばせる事を夢にするよ！』

『うん、パームの夢が叶ったら私は其れ見に行くから』

『うん、約束だよ。絶対に君を招待するから！』

『見たいなあ、パームのサーカス！』

『あ、只のサーカスじゃないからな。少し考え中なんだ……直ぐに思い付くんだ。えっと……エエイ、もう良い。招待する時に紹介するから待ってて！』

『うん、沢山待つよ！』

　最愛の彼との約束を夢見て少女は彼と別れました。ですが、其れが生前最後の別れに成るとは予想が付きません。そんな彼女は在る時、雨に見舞われます。其処で路地裏に逃げ込みます。

『止んだら良いのに……あ、誰かが必死で駆け込んだ？』

『ハアハアハア、此処迄逃げりゃあ……ああ？　てめえは何だ？』

『え？　い、息が、あれ？』

『俺の姿を見たんだ、てめえがいけないんだよ。だから此れは口封じって奴さ！』

　雨の中で起こった悲劇。其れをやったのが彼です。彼は自分の為だけに彼女を殺しました。然も何の躊躇もなく持っていた銃で心臓を撃ち抜いて。ですが、止めを刺す前に彼は銃声の音に反応した人の声を耳にしてその場を後にします。

『あれ？　寒いよ、寂しいよ。な、何で？　ねえ、パーム？　何処なの？　パパ、ママ……あれ？　隣のマサちゃん、遠い隣、のサエちゃん、其れ、から……あれ、声が、声が、痛い、でも、痛みが、ウウウ、生き、生き、だ、ぃ』

　人が駆け付けた時、既に彼女の脈は止まりました。駆け付けた人だかりの中で笠を被った人が押しのけて診断します。

『……僅かに執念が生きたいと霊を留まらせようとするのがわかる。此れだ……悪いが、少女。君を実験台にして貰う。そうゆう訳で……其処を退き給え。此れから彼女の司法解剖を進める。もう一度言う、其処を退き給え！』

　其れから－－










































　－－今は此れがメームル・エアリズ再誕秘話の一部なのです。彼女は制御装置で意識を制御される中で次のような呟きを漏らすのです。

『会わないと、パームにもう一度……会わないと』