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ダーティークエスト 鉄血のアルケミスツ

 転送装置を使って戻って行くヘレナ・スコルピアス少佐……彼女は何かを思い出します。其れは余りにも辛い過去の出来事なのです!

『やいやい、蠍座の女。バッチイ、近付くんじゃねえよ!』

 其処は保育所のような場所でしょうか? 其処で幼少の彼女はアドヴァニアンで在りながらも同じアドヴァニアンの孤児達に虐められます。然も他の子供達は『ヘラクレス』や『ギルガメス』、『ゼウス』や『アキレウス』といった英雄なのに対して彼女だけは『スコーピオン』呼ばわり。其の理由は後程紹介されます!

『又、ヘレナだね。駄目でしょ、食べ物を粗末にしたら!』

『だって……スパイダーは食べられないよ、食べられ……イダイ!』

『まあ、スコーピオンの子の癖に……スパイダーも食べられないって。やあね、呆れちゃいそうね。ほら、今度はフロッグ又はスラッグよ』

『駄目だよ、食べられ……ヒギイイ!』

『スコーピオンの分際で食べられないんだって!』

『ほらほら、土を掘って中で食べたら良いじゃんか……ねえ?』

『ヘレナには土の中で物を食べるのが御似合いなのよ、フフフ』

 其れは地獄なのです。彼女は幼少の頃に受けた心的傷害に依り、此の世を信じる事が出来ずに大人に成ります……彼女は大人に成って初めての殺人を試みるのです!

『止めてよ、ヘレナ。ご、御免為さい。ミ、ミレニアで、ブ、武勇伝を、聞いたわよ。あ、あづい、あづいよおお!』

『ハッハッハー、如何しようかな? あ、そうだ……炎の中で林檎を食べなよ。きっと熱々で美味しいよお?』

『わ、わかったから助けてよ!』

『今度はバナナをピッグの鳴き声で叫びながら食べなよ!』

『ブヒイ、ブヒイ、ブヒイ……ど、如何?』

『あーあ、本物のピッグかあ……じゃあ焼き豚の刑』

 僅か十三歳で彼女は復讐を遂げます……しかし、彼女の復讐は空しく終わります。

『ハアハアハア、何がすっきりするんだよ。こ、此れがアタシの求めた復讐? 全然、全然、全然……スッキリしねえなあ。何かないかなあ?』

『其処で何をしているんだ。巻き込まれるぞ、君いい!』

『あ、良い所に居たあ!』

『グワアア……な、何を、アッがああ!』

『ヒャッハアハッハッハッハー、そうだ……代わりを見付ければ良いんだよ。なああ……たっぷりと可愛がってあげるぜえ!』

 復讐の末に彼女は悪に魅入られます……其れから--























 --彼女が我に返る時、既に転送は終わったばかりなのです。

「ああ、ああ?」

「スコルピアス少佐か、随分と魘されている様子か?」

「アタシの心を読むんじゃねえよ、座頭市崩れがあ!」

「待て、此処は……悪夢かな、せめて良い夢、春の夢」

「……怒る気もなく成ったぜ」

 こうゆう時にダイナーズさんの寒い俳句は活きるのですね!

「久し振りに戻りたくもない故郷に戻っちまったんだ。其のせいで思い出したくないもんを思い出しちまったんだよ」

「其れで貴殿は去年、ジェナ・ストロム中尉に任せたのだね」

「あの小娘は虐め甲斐が在ったんだよ。こんな目に遭わせなければもっともっともっともっと……いや、其れ以前にサレネのアバズレがアタシにイチャモンを付けなかったらこんな目に遭わなかったのに!」

「御互いに事情が在って苦労するみたいだ」

 其れを知ろうとする私はヘレナさんの事を悪い人って断じて良いのでしょうか?

更新日:2019-09-02 20:27:08

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