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リーンは自らの足で外に踏み出す

 私の名前はリーン・アンドロメダル……十七歳。アドヴァニアンにして今は事実上の『上皇』として隠居生活を送る毎日です。そんな私の元に訃報が届きました……「カムパネルラが崩壊、ですか?」届けたのは私の教育係を務めます『ローゼリッテ・デッドラン』少佐です。

「はい、イデオ陛下の安否は今の所不明です。一部の情報に依りますと傭兵ヴェイラが保護したと聞きますが、彼女の安否が不明な今と成っては確認の使用が在りません」

「たった此れだけですか? ヘンテイ新聞の記事が在りませんが」

「彼の新聞社は例の襲撃事件で社長以下従業員のほぼ全てが皆殺しにされ、事実上の廃刊と成りました。工場が炎上した際に、然もこんな……低俗な物がカムパネルラだけじゃなくコスモス全土に散らばりました」

 其れは三十年前に騒がせたイワイワ記事ですね。きっと犯人はヘンテイ新聞社に止めを刺す為に工場に乗り込んで再び周知させたのですね。気持ちは良くわかります……こんな風に誤解されたら謝罪では済みません。だからこそ犯人は此れを周知させて全てに決着を付けたのですね--と私は解釈します。

「殿下、各新聞社の見出しも中身でも現時点で知る事が出来るのは此れだけです。後は諜報部隊の力に頼るしか在りません。では、私は此れにて失礼します」

「あ、待って……教官」

「何でしょう、殿下……」敢えて彼女に頼みたい事が在ります--彼が何故あのような行動に出たのか、其の真意を探る為に!


 其れから私は一時間、城内を散策します。其処で得たのは去年と比べて変化の起こった城内の様子です。其れは次の通りと成ります。

「強硬派は依然として主張は変わらないけど、ラーゲン・ジルベーグが死んだ事で上院が機能し始めたんだぜ。如何やらあのおっさんが上院を機能させなかったんだな……」ジルベーグ軍務大臣の死に依って機能不全に陥った上院は少しずつ正常に戻され始めます--皮肉にも『ブレン』が彼を粛清した事が功を奏した一例なのです。

「殿下、噂に依るとカムパネルラにはヴェイダーが居たという情報も飛び込んでおります……」ヴェイダーが、あの地に--とするとヘンテイ新聞工場襲撃事件の背後に彼の影が潜みますね。

「新たに就任した総理大臣『シェルロ・エヴェルヴェ』は前総理ツヨ程強硬な姿勢が在りませんので変に強きに出ずに穏便に御願いします……」其れから私は謁見の間に乗り出します--イデオ陛下不在中はどんな風に機能しているのかを確かめる為に。

 中に入るとやはり独特の匂いと正常な空気、そして荘厳な雰囲気が漂います。其れに拍車を掛けるように皇帝の椅子には誰も座さずにみんな立って私の方に視線を向きます。私の精神にプレッシャーという名の空気が襲い掛かります。此のアドヴァニア帝国が二千年間も培って来た空気の歴史は私一人が無茶苦茶にした去年を以てしても簡単には変わりません。其れ位にアドヴァニア帝国独特の空気を読む習慣は完全な同調圧力として悪しき風にも或は正常にも機能します。今は後者ですね。そんな中で総理大臣シェルロは口を開きます。

「え、えっと、上皇陛下殿、ですね?」

「いいえ、シェルロ総理。私は去年通りリーン皇女殿下と御呼び下さい。去年の罪を背負う形で私は其の呼称を許可いたしませんので如何か宜しくお願い致します」

「あ、あ、は、はい!」シェルロさんは去年、いきなり指名されて以来はずっとあのような形で畏まり過ぎる嫌いが在ります。「で、では殿下、どのような御用件で此方へと足をはこ、運ばれたのですか?」

「はい、私は陛下の現状を知る為にシェルロ総理を始めとした閣僚の方々の情報を聞きに参りました」

「御言葉です、が、で、殿下。内閣をだ、代表して、も、申し上げると、現時点で、では、ま、未だ安否の確認が、不十分で在ります。も、もう少し、様子を確かめてから、御自分の御部屋に戻られる、事で在ります」

「如何してですか?」

「例のエコ、『エコプロジェクト』の一環としてですね」此処から彼は喋り方に硬直性が無くなります。「覇者の大地に在る戦略兵器に依るマーレイド中の村落を焼き討ちにする『旧絶滅派』のテロは今も続きます……外に出られるのは万が一にも兼ねて危険と判断します」

「テロですか……」ハーデス元帥率いる『旧シルバーピープル絶滅派』に依る陰謀と言えども此の事態を招いた私は今でも心を苦しめます--こんな時に彼が居たら……此の心は少し安心出来るのに!

更新日:2019-07-01 05:45:02

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