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 自分の名前はヴェイラ・フォックス……二十六歳、傭兵。自分には帰るべき場所もなければ何処にも終わりを迎える場所もない。只、仕事の為に各地を転々とするだけ。

 そんな『私』が己の求めたい事に気付いた時は如何すれば良かったんだ? 故郷ロープでの過酷な生活は全てあの女、エレヴァーラ・トーラレズが父タウロン・フォックスの遺志を継ぐ為に或は私を生かす為に掟を捻じ曲げた。其の代償は二度と故郷の土に足を踏まない事……知っていた、わかっていた。だが、成長と共に幼き心は其の記憶を封印した。

 時折、自分でもわからない行動をするのは私自身があの秘境の記憶に従って死にたがっていたかも知れない。傭兵として活動したのも全てはあの女を殺す為ではなく、あの女に殺される事を願っていた。そんな風にして私は理解出来ない行動に苦しみ続ける事に……其れに気付いた頃には産まれた時の場所に移動してコロコッタの声を聞き続ける羽目に成る。私には蘇った記憶を如何やっても受け入れる事が出来なかった。

 でも今の私には其れを受け止められる仲間が居る。二十六年の生涯の中で漸く信頼出来る仲間を見付けた。私自身を受け止めてくれる仲間を見付けてくれた。其れが今の私にとって第二の故郷として繋がる。

 何れは短い期間の中でしかない第二の故郷。故郷を離れた後、私は父と母が愛した此の惑星を生涯懸けて旅するかも知れない。如何やっても私には父と母が愛した故郷に戻れない。掟を破る事は残念ながら無理だ。でも構わない、私には受け止めてくれる故郷の友人にもやっと気付いた。私は孤独ではない……其れに目を向けなかっただけだ。

 其れに気付くきっかけを作ったのが思い出したくもないあいつだ。あいつは初めて会った時から無礼で真っ直ぐ『自分』に対して嫌がらせをして来た。其れは故郷では味わった事のない本物の嫌がらせ。奴は迷いなくそして自らの身を省みずに自分に対して嫌がらせをして来たのだ。其れは弱い者を痛め付けるような腑抜けた根性ではなく、只やりたい為にやる嫌がらせ。其の度に奴には死ぬよりも恐ろしい目に遭わせるのに……なのに奴は懲りずに自分に対して嫌がらせをして来る。奴にまんまと嵌められたのか、自分は? 当初は其れが理解出来なかったが今ではわかって来た……自分自身が自分と向き合えない為に故郷を如何しても嫌な思い出にしようとしたつまらん意地の表れだったのかも知れない。

 そんな奴が事が終われば一体何が残るのか? 其れが如何しても気掛かりな話だろう。奴には自分以上に帰るべき場所もないし、受け止めてくれる人間もきっと居ない。根っからの悪党だからな、奴は。何なら自分が……いや、止めよう。ストレスだけが溜まって来る。

 今は母の心の呪縛を自らの手で解き放つ事にも集中しないといけない。そして、母の人生を侮辱したあのバルマーを倒すという依頼もな。所詮自分は傭兵……与えられた仕事は最後迄果たさないといけない。恥はもう御終いだ!

更新日:2019-08-27 19:12:56

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