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終わりの始まりが集う時
其の人は私よりも八年早く生まれました……ですが、其の人は永遠に皇帝に成る素質が在りません。華麗なる皇家、現人神の末裔として将来を約束されているにも拘らず。其れは彼が生まれる一年前に悲劇は起こったのです。其れは或る日の事なのです!
『そんなああ、陛下は私の事を愛してくれないのですか!』
『未だわからんのか、馬鹿垂れめ。皇家たる者に成る以上は全てを民の為に尽くすと誓ったじゃないか。何故其れが出来ない!』
『何度も仰っているでは在りませんか。其の度に私の体は、薬で塗れて、既に歯はボロボロで差し歯で上手く誤魔化す以外に民を欺けません!』
『民に向かって何だ其の口の利き方はああ!』
彼の母は何度も最高権威に就く者に酷い罵声を浴びせられるのです。抱き合う時も食事の時も其れから其れから……数え上げたらキリが在りません。彼の母は其れでも其の方を愛そうとします。けれども其の方は常に愛を民に向けて一向に取り合いません。其の苦しみは見えない形で露呈して行きます。
『馴れ初めの頃は理想の為に燃え、武力に見合うだけの強い心を其処に見出して愛し合ったのに……イデオが生まれてからは、すっかり変ってしまいました。イデオがあの人の武力も立派な精神も受け継がないと知ると急に私への風当たりは強く成りました。其れを克服しようと何度もオットセイから採れた精薬をあの方に仕込んだり、私自身も活性化させる為に美容に何度も挑戦したり或は卵子の活性化を促すサプリメントや更には心の活性化等を努めてまいりました。なのに、一向に子供が生まれない。悪阻さえも起こらない。何が原因? 愛? 私は段々、グランに愛想尽かしているの? じゃあ如何すれば良いの? 其れともあの方の愛が足りないからなの?』
其の方の居ない所で彼の母は布団の前で何度も咽び泣くのです。独り言を何度も人が聞こえる程の音量で発するのです。其れは一人だけなのにまるで誰かに聞いて貰いたい程に。そうです、其れが……或る人の好い方の耳に入るのです。
『誰ですの、寝室に入る不届き者は……貴方はエヴァ、近衛師団長のエヴァが如何して此処に忍び込んだのですか!』
『ハッ、御知らせせずに申し訳在りません……皇后陛下。じ、実は、わ、忘れ物を届けに来ました……そ、其の無礼を承知で!』
『エヴァ、貴方なら別に構いませんわ。何時も貴方のやる事は正しいのです。結果としてエルガもイデオも貴方を大変尊敬しておりますわ』
『陛下、話を誤魔化さないで下さい。そ、其の……皇帝陛下は、皇后陛下を愛しておられないという話は冗談ですか?』
『冗談に決まっているわ。皇帝たる者、全てを愛するように私も同様に愛しておりますわ』
『だったら其の毛布の乱れ具合は如何ですか? 聞いておりますぞ、幾人もの侍女から……更には其れをネタにする無礼千万の週刊誌からも』
『為らば貴方の命は在りません!』
『ええ、此の件を秘密にするならば今直ぐに……其の剣で私の胸を貫いて下さい。勿論、此の件は不慮の事故という案件で処理をして下さい!』
其れは忠臣故の悲しい仁義の心なのです。其の近衛師団長は秘密を知った為に国家の為に命を捨てようとします。此れに対して彼の母は剣の切っ先を明後日に向けて近衛師団長を抱いてしまいました!
『な、成りません。こ、此の事が皇帝陛下に知られれば……汚点事件として国家の崩壊に関わります!』
『御免為さい、エヴァ。貴方を死なせる事が更に国家的な損失に成ります。其れ以上にわかったのです……私の愛は、貴方に向けるしかあの方の嘗ての心を蘇らせる方法が在りません。如何か、エヴァ……私の愛を受け入れて?』
『そ、其れだけは……あ、貴女は、貴女様は、何故そんなに、お美しいのです、か!』
其れが禁断の愛だと知らずに……いいえ、知っていても互いに互いの愛と同情とそしてアドヴァニア帝国に染み付いた権力欲が絡み合って二人を禁断の関係へと貶めて行くのです……気付いた頃には既に手遅れだと知らずに!
『産まれました、産まれました……が!』
『あ、貴方様は……如何して、此処に?』
『やはりおかしいと思っていたのだ。何故余を立ち会わせないのかと思ったら……こうゆう事だったのかあ!』
『ああああ、ウ、ヒ、グゥゥゥゥゥ!』
『皇后陛下が、皇后陛下の容体が悪化して!』
『まさか……余が、余が、ダンバを……如何して余はこんな時迄気付く事が出来なかったんだあ!』
一人の赤子の誕生と同時に--
--其れから二十五年後……「余が生まれなければ母上は死なずに父上は覇者の大地を再誕させるという狂った野望を持たなかった。此れを払拭するには余が、全てを救わないと成らない!」其の赤子は善意の中の悪意を知らずに実行しようと走り続ける……
『そんなああ、陛下は私の事を愛してくれないのですか!』
『未だわからんのか、馬鹿垂れめ。皇家たる者に成る以上は全てを民の為に尽くすと誓ったじゃないか。何故其れが出来ない!』
『何度も仰っているでは在りませんか。其の度に私の体は、薬で塗れて、既に歯はボロボロで差し歯で上手く誤魔化す以外に民を欺けません!』
『民に向かって何だ其の口の利き方はああ!』
彼の母は何度も最高権威に就く者に酷い罵声を浴びせられるのです。抱き合う時も食事の時も其れから其れから……数え上げたらキリが在りません。彼の母は其れでも其の方を愛そうとします。けれども其の方は常に愛を民に向けて一向に取り合いません。其の苦しみは見えない形で露呈して行きます。
『馴れ初めの頃は理想の為に燃え、武力に見合うだけの強い心を其処に見出して愛し合ったのに……イデオが生まれてからは、すっかり変ってしまいました。イデオがあの人の武力も立派な精神も受け継がないと知ると急に私への風当たりは強く成りました。其れを克服しようと何度もオットセイから採れた精薬をあの方に仕込んだり、私自身も活性化させる為に美容に何度も挑戦したり或は卵子の活性化を促すサプリメントや更には心の活性化等を努めてまいりました。なのに、一向に子供が生まれない。悪阻さえも起こらない。何が原因? 愛? 私は段々、グランに愛想尽かしているの? じゃあ如何すれば良いの? 其れともあの方の愛が足りないからなの?』
其の方の居ない所で彼の母は布団の前で何度も咽び泣くのです。独り言を何度も人が聞こえる程の音量で発するのです。其れは一人だけなのにまるで誰かに聞いて貰いたい程に。そうです、其れが……或る人の好い方の耳に入るのです。
『誰ですの、寝室に入る不届き者は……貴方はエヴァ、近衛師団長のエヴァが如何して此処に忍び込んだのですか!』
『ハッ、御知らせせずに申し訳在りません……皇后陛下。じ、実は、わ、忘れ物を届けに来ました……そ、其の無礼を承知で!』
『エヴァ、貴方なら別に構いませんわ。何時も貴方のやる事は正しいのです。結果としてエルガもイデオも貴方を大変尊敬しておりますわ』
『陛下、話を誤魔化さないで下さい。そ、其の……皇帝陛下は、皇后陛下を愛しておられないという話は冗談ですか?』
『冗談に決まっているわ。皇帝たる者、全てを愛するように私も同様に愛しておりますわ』
『だったら其の毛布の乱れ具合は如何ですか? 聞いておりますぞ、幾人もの侍女から……更には其れをネタにする無礼千万の週刊誌からも』
『為らば貴方の命は在りません!』
『ええ、此の件を秘密にするならば今直ぐに……其の剣で私の胸を貫いて下さい。勿論、此の件は不慮の事故という案件で処理をして下さい!』
其れは忠臣故の悲しい仁義の心なのです。其の近衛師団長は秘密を知った為に国家の為に命を捨てようとします。此れに対して彼の母は剣の切っ先を明後日に向けて近衛師団長を抱いてしまいました!
『な、成りません。こ、此の事が皇帝陛下に知られれば……汚点事件として国家の崩壊に関わります!』
『御免為さい、エヴァ。貴方を死なせる事が更に国家的な損失に成ります。其れ以上にわかったのです……私の愛は、貴方に向けるしかあの方の嘗ての心を蘇らせる方法が在りません。如何か、エヴァ……私の愛を受け入れて?』
『そ、其れだけは……あ、貴女は、貴女様は、何故そんなに、お美しいのです、か!』
其れが禁断の愛だと知らずに……いいえ、知っていても互いに互いの愛と同情とそしてアドヴァニア帝国に染み付いた権力欲が絡み合って二人を禁断の関係へと貶めて行くのです……気付いた頃には既に手遅れだと知らずに!
『産まれました、産まれました……が!』
『あ、貴方様は……如何して、此処に?』
『やはりおかしいと思っていたのだ。何故余を立ち会わせないのかと思ったら……こうゆう事だったのかあ!』
『ああああ、ウ、ヒ、グゥゥゥゥゥ!』
『皇后陛下が、皇后陛下の容体が悪化して!』
『まさか……余が、余が、ダンバを……如何して余はこんな時迄気付く事が出来なかったんだあ!』
一人の赤子の誕生と同時に--
--其れから二十五年後……「余が生まれなければ母上は死なずに父上は覇者の大地を再誕させるという狂った野望を持たなかった。此れを払拭するには余が、全てを救わないと成らない!」其の赤子は善意の中の悪意を知らずに実行しようと走り続ける……
更新日:2019-09-07 19:49:42