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バンシーのなく頃に

 彼の人生は今更語るべき物は少ない。其れでもあいつから受けた嫌がらせだけは此処に留めておこうっと。酒に溺れた彼は誰にも告げる事が出来ずに自室にて死んだかのように俯せで寝る。盗んで来たのかそれとも貰い物か知らないベッドが在るにも拘らず痛みが走る危ない床の上で寝る。彼は其の侭眠りに就く……

『エイガアア、居るでしょ!』

 眠りに就く前に知っている声に目が覚める彼。何とか起き上がって直ぐにドアノブの鍵を開けて呼び掛けた彼女を自室に入れる。

『何だよ、キャスリン。わかっているぞ……こうゆう場合に限ってお前は俺の所に直行する位は!』

『こうゆう時ってのは貴方が何か悩んで自棄酒している時でしょ?』

『わかっているなら一人にしてくれ。今の俺は誰にも会いたくないんだ!』

『其れじゃあ心配するでしょ!』

『誰がだよ……弟や妹達が!』

『違うでしょ、私が……よ!』

 彼女は彼を強く抱き締める。普通なら情けない男は此処で張り手をする。酒に酔って居たら余計に平手打ちをして来たり突き飛ばす事間違いなし……

『ウウウウ、何で俺ばっかりこんな目に遭わないといけないんだ。何で俺は格好付けるのを止められないんだああ!』

 けれども彼は大の格好付け--理不尽な理由で彼女に暴力を振るわない!

『何処が格好良いのよ、エイガー。貴方は十分に格好悪いでしょう。酒に酔ってふらついて、何も言わずに死んだように寝るんだから!』

『自分の部屋位良いだろうがああ!』

『良くないでしょ、一人で抱え込まないで。去年もそうだった!』

『五月蠅い、未だ十一ヶ月……』

『細かい事を言ったわね、十分に格好悪いよ!』

『何だと……一々何処の家庭にも見られるカカアのような振る舞いをしやがって。何時からお前は俺の嫁に成ったんだ!』

『恥ずかしいわよ、エイガー!』

『ならばおばさん達か如何かを俺が確かめてやるうう!』

 彼の悪酔いは色々な意味でどの男も真似が出来ないね。えっと此処から先は子供には紹介出来ないので此処でカット。場面は朝日が差した時間帯……

『あ、あれ……イデデデ、二日酔いだけはわかったぜ。だが、何なんだ……俺は酔っていたと言い訳しようともティッシュを五十枚以上も使って迄キャスリンを……俺は、俺は!』

 彼は昨日の出来事を後悔していた。目覚めは良いけど、ティッシュを計五十二枚も使用する程の事をして余りにも逃げそうな程に蒼褪めていた。何を蒼褪めるのか?

『だ、大丈夫。たったの一回よ。す、直ぐに赤ちゃんが出来る訳じゃないわ!』

『何処が一回だ……ティッシュ五十二枚は明らかにやり過ぎだ。俺は……親父さんに今度こそ滅多刺しにされてしまう!』

『そ、其の時は……』

『あ、兄貴。扉、開けっ放しだぞ!』

 如何やら二人の男女は鍵を閉めるのを忘れていた--即ち濡れ場は御近所に知れ渡った後なのね!

『俺の人生終わった。と、取り敢えず今日は泥棒業は休みにして遺書でも書くか……』

『自信を持ちなさい、エイガー。其処は私が、私が何とか説得を、説得をしておくから!』

 彼は遺書を書き留める前に呼び出され、本当に殺される寸前に追い込まれたよ。一応、彼女と其の母親の懸命な説得に依って事無きを得たのね。
























 --場所はと在る川。エイガーは去年迄あたしが使っていたシャワー場の前で寝ていた模様。

「夢か……あれは人生最大の難関だった。然もあれで本当にキャスリンは妊娠してしまったしな。全く……其れも此れも全てあの野郎のせいだ。ったく、こうしてケイオスに無事……」其の時、エイガーの鼓膜を振動させる鳴き声が響き渡る--思わず両手の人差し指で耳の穴を塞ぎたく成る程に!

「糞五月蠅せえエ……何て鳴き声だ。近くだ……ア、あの狼煙は!」エイガーは独り言を呟きながら狼煙の方に視線を向ける。「あの方角は確かあれだ。ルーインちゃんの故郷だったよな……一体何処の誰が襲撃したんだああ!」

 エイガー・マイロードは今日も素早く馳せ参じて行く!

更新日:2019-09-05 06:00:49

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