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サレは残酷にヴェイグを罵る、馬鹿みたい、と

 此れは彼女のと在る思い出の中です。其処では彼女は必死な思いで誰かの真似をします。

『イダ……全然出来ないよお』

 彼女がしていたのは藁を使った居合斬りの練習です。藁を使う程に貧乏なのが彼女の家。木刀を買うお金も捻出するのが大変です。其れでも藁で居合斬りを練習する彼女。すると其処へ物干し竿程に長い刀を持った特徴的な和風軍服を着込んだ成人男性が駆け寄ります。

『只今帰って来たぞ……って又居合斬りの練習か、クローム』

『あ、お帰り。兄さん、久し振りに帰って来たんだね。教えてよ、如何やったら兄さんみたいに抜かないように抜けるのかを』

『クローム、藁で練習していたのか? 道理で腕の周りに擦り傷が出来ている訳だ。でもね、クローム。此れを見なさい』

 クロームさんの思い出なのですね、此処は。とすると此の両眼で幼い彼女を見下ろすのは若かりしダイナーズさんですね。そんな彼は居合斬りへと至る道を言葉ではなく傷だらけの手首を以って示します。

『切り傷擦り傷、更には致命傷に近いかも知れない傷を負って漸く我は習得した技術だ。クロームよ、兄として求めるなら居合斬りは妹に求める技術ではない』

『うわあ、痛そうだよ。で、でも此の前はそんな傷なかったのに』

『隠していたんだ、お前に知らない所で。お前にはこうゆう道を歩ませたくない。兄のように傷付いて迄技術を得て欲しくない。お前には漁師として或はそうでなくても此の広い海を見渡せる技術を身に付けて欲しいのだ。我には稼業を受け継ぐには夢を大きく持ち過ぎたのだよ』

『でもお父さんやお母さんは感謝しているよ。兄さんが軍人さんとして一杯働く御蔭で日々の生活が楽に成ったって』

『士官に合格出来たのは奇跡に近い。実際、士官学校では優秀な成績で卒業してはいない。未だ未だ学ぶべき事の方が多いようで困っている』

『でも兄さんは私にとって目標だよ。だから兄さんの居合斬りを一刻も早く学ぼうと思って……』

『話を聞け、クローム!』

 ダイナーズさんは頑なにクロームさんに居合斬りを学ばせたくないのです--其の証拠に彼は気当たりだけでクロームさんの首が切断するイメージを飛ばしました!

『あ、あれ? う、うわあああん!』

『御免よ、クローム。此れが人を斬るって事だよ。お前にはこんな真似をしたくない。お前には貫く道を貫いて欲しいんだ』

『謝らないでよ、兄さん。でも、でも諦めたくない。こんなに恐い事でも諦めたく、無いよ』

『諦めろ、クローム。戦いの道よりも人々の希望に成る道を貫け。お前に居合は向かん!』

『兄さああん』

『あ、そうだ。一句思い付いたぞ……居合より、漁師良いぞ、クロームよ!』

『兄さん、寒いよ』

『あれ? おかしいな……我の中では最も完成度の高い俳句だと思ったのに!』

 此の頃から俳句を試みたのですね。ですが、余りにも滑っていてさっき迄泣いていたクロームさんが泣き止む程です。

 其の一件も在って次の日の朝には……

『クロームよ、何をしている?』

『うん、漁師に必要なのは撃つ事だと思ったから』

『転んでもタダでは起きないな。まあ止めはしない。其れで父さんや母さんを養うんだぞ』

 ダイナーズさんは妹に甘いせいかクロームさんの狙撃手としての道を止める事はしません。いえ出来ないと諦めて止めなかったのですね。

更新日:2019-07-12 07:00:58

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