• 1 / 2 ページ

Eat! eat! EAT!

 ここはシャドウガード。イオドーンの僻地に建てられたミナックスの本拠地。
 壮麗堅牢な石造りの砦だが、日々冒険者たちが魔女を打倒すべく乗り込んでいる。
 かつては難攻不落とうたわれたが、大勢の冒険者たちの知恵によって難解な各階層の謎は解き明かされ、行き来の容易な場所となっていた。
 最後の障壁は、強大な力を持つ配下の四体。
 冒険者たちはそれすら打倒し、何度もミナックスに肉薄するが、誰も魔女本人を討伐にはいたっていない。魔女は部下が何体倒されようとも、さっさと見捨てて逃亡してしまう。
 その腹いせに一部の冒険者は、背信の魔術師アノンの死体からローブを引きはがしたり、巨体の牛悪魔バーチューベインを切り刻んで肉を打ち捨てていったりする。いわゆる死体蹴りだ。
 いずれ彼らは戻ってきたミナックスが蘇生し、再びシャドウガードの護りとして配備される。
 死んでは生き返らせられる過酷な使役に、4体の守護者は冒険者への恨みを募らせるばかりだが、いまは魔女の身辺を守るのが精いっぱいというのが実情だった。

 また一人、冒険者がこのシャドウガードへやってきた。
 Bentenは調教師だ。愛竜のレプタロンとともに、シャドウガードを攻略する冒険者だ。
 今夜も既にほかの冒険者たちの殺戮の宴が終わったのか、シャドウガード前庭に戦利品の残りやアノンの衣服に得体のしれない巨大な肉が散らばっていた。
 彼らが残していったものはいずれ腐って消えるだろうが、愛竜が肉塊にとことこ近づいてしきりに匂いを嗅いでいた。まだ血の滴る新鮮な肉塊に魅了されたらしく、なかなか立ち去ろうとしなかった。
「食べたいの?おなか壊さないかしら」
 レプタロンは切なそうにくーくーと鳴いて、食べていいか?と言いたげに背中に乗る彼女にふりむく。 
 以前ほかの冒険者が騎乗竜のスワンプドラゴンに食べさせていたことを思い出した。
 今も時々姿を見かけるので、食べさせてもどうってことはないだろう。
 彼女はレプタロンから下りて、いつもの食事分の量の肉を切り取ってペットに差し出した。
 レプタロンは食べ慣れない味の肉に目を丸くしながら、モグモグと咀嚼して飲み込んだ。
「おいしい?いい子ね…」
 レプタロンは「美味しい!」と言うように、喉をのけぞらせて炎を吐きながらひと声咆えた。
 悪魔牛の肉はレプタロンにとって大変美味だったらしく、Bentenの手を振り払って頭を肉塊につっこみ、ガツガツと食べていく。あっけにとられているうちに、バーチューベインの肉塊は齧られてみるみる小さくなっていき、すべて食いつくされた。
 レプタロンは満足そうに大きなげっぷをして、調教師に頭をすりつける。
 愛竜のおなかは見たこともないほどにパンパンになり、背中に乗ろうとすると苦しいのか嫌がられた。
 彼女は今日の探索をあきらめ、よたよたと歩くペットの手綱を引いてシャドウガードを後にしたのだった。

 次の日、レプタロンのようすを見に厩舎へ行くと、そこには一回り体格が大きくなった愛竜がいた。
 角も大きく成長し、全身の筋肉が盛り上がっている。体色も何となく黒ずんで強そうな姿になっていた。
 恐る恐る近づくと、やはり自分のペットで間違いないのか、親しそうに鼻づらをゴリゴリと押し付けてくる。命令もちゃんと聞く。
 ほっとしながらも、変な肉を食べさせるんじゃなかったと後悔したが、バーチューベインの悪徳に汚染されたわけでもなく、ただ姿が少々変わっただけならいいかと思いなおした。
 そしていつものように狩りに出かけた。レプタロンの働きに特に異常はなく、ほっと胸をなでおろしたのだった。

 * * *

更新日:2019-05-21 21:16:34

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook