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優しい人たち その一

308 『阿笠博士』

長い廊下を歩き、阿笠博士と書かれたネームプレートの前で灰原哀が足を止める。

目の前の白色のドアをゆっくりとスライドさせると、努めて明るい声で呼びかけた。

「博士、持ってきたわよ」

哀の涼やかな声色が室内に響き渡る。

しかし、ベッドに横たわる大きな体は動く気配がない。

(寝ているのかしら?)

わずかに眉をひそめながらベッドの側まで近寄ると、
オフホワイトのカーテン越しにテレビの音が聞こえてくる。

どうやら博士は夢中でテレビを見ていたようだ。

博士の視線から隠れるように哀がふぅと小さく安堵の吐息をついた。

更新日:2019-12-08 11:50:21

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