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親友のつぶやき

「哀ちゃん、遅いなー。数学の宿題を教えてもらおうと思ったのになぁ」

三階の校舎の窓枠に肘をつきながらポツリと呟く少女の名前は吉田歩美、帝丹高校二年生。

さっきからずっと歩美は一人でぼんやりと校庭を眺めている。

快晴の空の下、時折、五月の爽やかな風が少女の頬を悪戯するようにくすぐっていく。

そんな心地よい風とは裏腹に歩美の心は少々憂鬱だ。

何しろ週末に出された数学の課題のプリントがまだ半分近くも残っている。
今日提出だというのに……。

昨夜は『明日、哀ちゃんに教えてもらえばいいや』と途中で諦めて寝てしまったのだ。

けれども、歩美が学校へ来てみれば、頼りになる親友の姿がどこにもない。

いつもならもう教室の窓際の一番後ろの席に静かに座っているはずなのに。

予鈴が鳴るまであと十分。

校庭では朝練に励んでいた運動部の生徒たちが続々と校内へと引き上げていく。

『哀ちゃん、今日は休みかな? 宿題、どうしよう……』

「はぁー」とちょっと困った様子で歩美がため息をついた時だった。

歩美の憂鬱を吹き飛ばす出来事が視界に飛び込んでくる。

それはゆるやかなスピードで青いスポーツセダンが走ってきたかと思ったら、
校門の少し手前で止まったのだ。

見覚えのある車に歩美のテンションが上がっていく。

『もしかしてあの車って……』

そして、助手席のドアが開き降りてきた少女の姿に歩美が……

『えっ? うそぉ!? きゃあ、きたぁーーー!』

と、思わず絶叫しそうになる。

そうだ。
歩美が待っていた親友の登場だ。

更新日:2019-10-23 00:38:01

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