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まあくんの夏休み

まあくんは、小学校の一年生です。
「ぼく、もうなんだってできちゃうんだから」
あいうえおだって、足し算引き算だって、お絵かきだってできるのです。
それに漢字もちょっぴり。
だから、まあくんは大得意でした。
おとなりの子ネコのシロちゃんは、縁側で、そんなまあくんの自慢話を、いつも目をつむって聞いています。
でも、まだ子ネコですので、やっぱりじっとしていられません。
足をちょこっと出してみたり、あくびをしたり伸びをしたり・・・
まあくんは、そんなシロちゃんを無理に縁側にすわらせておくのです。
だって、まあくんの家の近くには、まあくんぐらいの子供はいなかったのですもの。
大きなお兄ちゃんたちとは遊べないんですもの。

この夏休みは、パパがどこかへ連れて行ってくれる約束です。
「どこがいいかなあ」シロちゃんに訊いても知らん顔。
まあくんはまだ一年生ですので、学校へ提出する宿題は、お天気調べと歯磨き調べだけです。
あとはやりたい人だけ自由研究をすればいいのです。
まあくんは、昆虫採集がしたいなって思っていました。
だって、お友達の前で、きれいなチョウやなかなか捕れないセミ、大きなトンボや、デパートで買ったのではなく自分で捕ったカブトムシやクワガタを見せびらかして、えへんといばってみたいでしょ。
『これぜーんぶぼくが捕ったんだよ』って言ってみたいのです。
「パパ、昆虫採集に連れていってくれないかなあ」
と言ってから横を見ると、シロちゃんはつまらなそうに聞いています。
昆虫なんかおもしろくないのかな。
ネコって何を捕るんだっけ?
ねずみかお魚くらいしか思いつかないまあくんでした。ためしに、
「シロちゃんは魚釣りに行きたくないかい?」
と、言ってみました。
すると、今まで目をつむっていたシロちゃんが片目を開けて、しっぽをパタンと縁側の板に打ちつけました。
なんだか不安になって、
「でも、ぼく一人じゃ行けないや」と言うと、
またしっぽをパタン。
「そ、それにどうやって釣るのか知らないや」
またしっぽをパタンパタン。
まあくんはドキッとしました。
だってちょっと思いついて、ただ言ってみただけなのに、シロちゃんは行くつもりになっているようなのです。
「ほんとにぼく一人じゃ行けないし、どこへどうして行くのかわからないし、どうやって釣るのかも知らないんだ。ほんとだよ」
あわててシロちゃんに言い訳をしました。
でもシロちゃんは、つむっていたもう片一方の目を開けて、チロッとまあくんを見ました。
そしてまた、しっぽをパタンパタンパタン・・・
何かを考えているようです。
まあくんはドキドキして、
「ほんとだよ、ぼく行けないよ」と言いました。
シロちゃんはゆっくりと伸びをして、立ち上がりました。
そうしてあくびをしてから、何やらニヤッと笑ったようでした。
まあくんは、こんなふうなシロちゃんを初めて見ました。
シロちゃんは、またニヤッと笑いました。
そして片目をつぶってこう言いました。
「ぼくなら行けるな」
まあくんはびっくりして、シロちゃんを見つめました。
「ぼく魚大好きさ」
どうやらシロちゃんは、いつもまあくんのお話を聞いているうちに、言葉を覚えてしまったようです。
まあくんは、まだ口をあんぐり開けて、シロちゃんを見つめています。
「まあくんが行かないなら、ぼく一人でもいいよ」
とたんにまあくんはむっとしました。
だって、まるでシロちゃんは、まあくんのことを弱虫だって言っているようでしたので。
「ぼ、ぼくだって行けるよ!魚だってなんだって釣っちゃうよ!」
「それじゃ、ぼくのあとからついておいでよ」
そう言うと、シロちゃんはポンと縁側から降りると、植え込みの中に入って行きました。
まあくんも、靴をはくと、そのあとから繁みに入って行きました。

更新日:2019-02-18 16:18:59

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