官能小説

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ブルーローズ

れいちゃんがテレビ画面にくぎ付けになっている。

植物研究家として、急にガーデニングに目覚めたらしく、水や肥料のやり方やら、剪定の仕方に興味津々ならしい。

私もお花は大好きだけど、長期間家を留守にすることも多いので、鉢植えさえも育てられないのが現実だ。

興味はあるけど、、、今、この番組を見てもすぐには役に立ちそうにない。

「今」が大切な私は、いつか役立つ知識よりも、目の前のれいちゃんがいつこっちを見てくれるか、に興味がある。


「ねね。さゆみさん、肥料ってやりすぎるとかえって根がダメになるって知ってました?」

「あ。うん、なんか聞いたことはある。」


お風呂上りにアイスを片手に画面を真剣に見ているれいちゃんは、私を見ないで話をする。


「受け皿にお水をたっぷり、もNGなんですって!意外ですよねー・・今まで、いつもあふれんばかりにあげてたかも。」

「留守にすることが多いから、仕方がないんじゃない?喉カラカラで枯れちゃうよりは・・・」

「あっ!秋にはばっさり剪定したほうがいいそうですよ?せっかく伸びた枝を切っちゃうのは可哀そう、って思っちゃいますけど・・・」

「そうだね。そのほうが、元気になるって言うよね。世代交代ってやつ?宝塚と同じー・・・。」

「あ。これこれ、この前、お店で見かけましたーっ。個性的な葉っぱですよね!」


いつも私の目を見て、私の話をじっと聞いているのに。

画面に視線は向けたまま、私の相槌も上の空で流して、テレビと話をしているみたい。


悔しくなってきて、れいちゃんがお口に運ぼうとしているアイスを横からぱくんと食べてやった。


「ん?あ、あれ?」


アイスを食べようとしたれいちゃんが、空のスプーンに気が付く。

今頃気が付いたのか。私をほったらかしにしてるからだよ。


「ないね。アイス。」

「・・・もしかして、さゆみさんが食べました?」

「知らな~い。精霊さんの仕業じゃない?」


ぷんと拗ねて、れいちゃんから顔を背けてやる。


「精霊、さん。」


じっとスプーンを眺めて、本気で考えこんでいる。

ちょっとは疑おうよ。


「植物研究家のれいちゃんには、精霊さんの声が聞こえるでしょ?」

「・・・あ、いえ。聞こえなくて苦しんでたところで。」

「・・・だろうね。全然聞こえてないもん。精霊さんの声。」


きょとんとして、その後、落ち込んだような表情をする。

日常の「やらなければいけないこと」に追われて、「大切なもの」を見失う。

そんな時期は誰しもが経験したことがあって、感覚として取り込みやすいけれど、精霊の声が聞こえる感覚。というのは、理解しがたいのだろう。


れいちゃんの耳に聴診器を充て、私の胸に押し付ける。


「わかる?」

「・・・ドキドキしてます。」


「だよね。私が、何を考えてるか、わかる?」

「・・・。」


じっと私の瞳を見詰めたれいちゃんが、自信なさげに、でも、しっかりと私を抱きしめてくれる。


「・・・寂しそう?」

「やっと、気が付いてくれた?」

「・・・すみません。」


「あのね、れいちゃん。知識を取り入れるのは、とっても大切なことだし必要なことだけど・・・

それにとらわれ過ぎると「こころ」が見えなくなるよ?れいちゃんの魅力はさ。感性で役を掴んじゃうところなんだから。」


はっとしたように、私の顔を見詰める。

やっと、いつものれいちゃんになってくれた。


「あと、もう一つ。明日海研究家さんとしても、まだまだ未熟すぎます!」

「あー・・・、それは、ほんとにごめんなさいっ!精霊さんがこんなに側にいるのに、頭でばっかり考えてしまってました!」


素直に非を認めて、すぐに謝るから、可愛くってついつい「もっと先」を求めたくなるの。


「じゃあ、ごめんなさい、してもらおうかな?」

「・・・へ?」


悪戯っぽく微笑むと、れいちゃんが「何でしょうか?」とばかりに身構える。


「ヤダなー。私って、そんなに怖い?」

「いやいや。怖くはありませんが、どんな奇想天外なお題が課されるのかと、、、内心緊張しております。」


れいちゃんが自分の胸を押さえて、すーはー呼吸を整えている。

いつものれいちゃんに戻って、私だけを見詰めて、私のことだけを考えてくれて。

可愛くて、愛しくて、丸ごと食べてしまいたい衝動に駆られる。


ソファに座っていたれいちゃんの膝に乗り上げると、れいちゃんの瞳が驚きに開かれてゆく。

くるんとカールした睫毛に縁どられた茶色がかった瞳に映り込む私の姿が、どんどん大きくなってー・・・。

ふわりとくちびるを重ねる。


「私をほったらかしにした、罰、だから・・・・ね・・・。」


更新日:2019-10-31 22:49:13

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