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第二章:兇変

組織入隊後、閃は高校生になった。「The world of the dead or alive」という中二病全開の小説を執筆しながら、高校生活にも期待を向けていた。

「強くなるための場所は用意できたし、親友もできた。あとは、高校に入ればきっと何か変わるはず!人間不信も治る!」

まだ何一つ訓練を受けていないので、閃は弱いままだった。極端に言えば、いくま事件の時から何一つ精神年齢が変わっていない。物事を予測する能力が低く、自己の過大評価が酷い。そんな状態で野望をもって高校に入学しても、空回りするだけだ。

「高校でも学年トップに立ち、志望校は東大、そして新聞部に入って全部活の監視をしてやるぜ!」

今風の言葉で形容するならば「イキリ」が奇妙なほど当てはまる、それが閃だった。



同じ高校に進学したTは、依然として閃を批判していた。それでも閃は、いくま事件が過ぎた後なら自分の行動はすべて正しいという自己暗示をかけており、耳を傾けることはなかった。

案の定、玉砕した。学年トップは取れず、インキャだらけで年1度しか活動のない新聞部への入部をあきらめ、代わりに入った英語部で運命(笑)を感じた女の子には秒で振られてしまった。

完全に落ちぶれているということはなく、少なくとも普通の地位は保証されている。それでもプライドの高い閃には、その状況は許せなかった。

「なぜだ…なぜうまくいかない…?」

そして、現実逃避をした。SNSの名前が「闇裂凌駕」に変わり、リアルの生活に対するモチベーションが限りなく0に近づいていった。


「闇裂凌駕って何wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


ここぞとばかりに、viaが煽ってきた。名前は1週間で戻ったが、その印象が消えることはなかった。






六月ごろ、閃はある世界へと足を踏み入れた。

この世界では自分の本名、戸籍、容姿などのあらゆる情報が廃絶され、「アカウント」という分身を作って気ままに発言できる。
これまではヴァーチャルの世界での活動はゲームを主軸にしており、コミュニケーションが主体となる媒体での活動は初めてだった。

現実で蓄積した疲労を回復するには最適の場所だった。
他人にあまり気を遣わなくてもよい。面倒な人間関係が少ない。いつでも逃げられる。

そういった彼に都合のよい条件がそろったこの世界は、いつしか生活の一部ではなく生活そのものへと変貌してしまった。完全なる現実逃避が成立してしまったのだ。

彼がここにのめり込んだ直接の原因は、リアルで感じた失望の積み重ねだ。しかし、ゲーム内で出会えたIXのような刺激を、再び追い求めているというのも否定できなかった。






しかし、2週間も経つ頃には、その二つ目の世界の負の側面が際立つようになった。その世界の住民たちの会話はいつもどこかしら惨めな雰囲気を醸し出していたのだ。


「今日も学校サボったわーwww」

「お前不登校だもんなー、まあ俺も友達いないし学校辞めたいわ」

「聞いてよ二人とも…また彼ピに振られたの…しにたい…」

「大丈夫?今度一緒にあそぼ?慰めてあげるし、何も変な事はしないからさ^^」

「クソー、うちのババアうぜえ。死ねばいいのに!」

「これだから2次元はやめられないでゴワスなぁw」


閃も最初は受け容れていたが、後に激しい嫌悪感に襲われた。
こいつらは自分とは違う人種なのだと理解した。

さすがにここまでは落ちぶれてない、自分は環境に呪われただけで、人間的スペックはむしろ高いんだと、自己暗示をかける閃。彼の高いプライドは、この世界にすら順応することを妨げる要因となっていた。

中身のない呟きや交流にも飽きてきて、一度否定した現実世界の方がマシなのではないかとも考えた。


「自分にふさわしい場所はないのか?しっかり活躍できて、その能力を認められて、ストレスを感じなくてもよい場所は…」


彼にとって、現実は理不尽の塊であり、ネットはゴミの掃き溜めだった。そしてどちらにも順応できない自分を棚に上げ、全ての失敗を世界そのものに責任転嫁していた。

唯一精神的に楽になるのは、IXで話を聞いているときのみ。訓練が始まれば、弱い自分とおさらばできる。そう信じて、懸命に生きていた。


「それにしても、訓練はまだ始まらないのかな…ひょっとして騙されたのでは…」

「予定では7月上旬から本格的に始まるわ。長く待たせてしまったのは申し訳ないと思ってる。Alive君は特に、心の拠り所がないみたいだし、訓練を心待ちにしているのかもね」



天理には、閃の精神状態くらいなら軽くお見通しだった。



更新日:2019-02-18 01:17:47