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小説

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第一章:持病

「っしゃあ!!また相手が逃げたぜ!」


彼は明山閃。高校受験を4か月後に控えた中学生である。彼は今、自身の没頭しているゲーム「AXO(アクセルオンライン)」にて、口喧嘩で相手を言い負かしたところだった。彼は決して常識人とは言えず、成績優秀な半面、自信過剰であり、高いプライドを持つゆえに他人をなかなか信じようとしない。それにもかかわらず隙が大きく、意外にも扱いやすいバカの部類であったりもする。


「はぁくだらんねぇ…自分でケンカ売って相手が呆れるのを待って勝利宣言ですか」


「勝ちは勝ちだからいいんだよ、もっと虐めないとな!」


「2か月前にあんなことがあったからって自暴自棄になるのはよろしくないかと…」


「うるせえお前はさっさとネカマやめろ!」


ゲーム内で彼とコンビを組んでいるのは、同じく中学3年生の釧路枇杷だ。普段から女性アバターを使用し、女性になりきってゲームを嗜んでいる。性格はサバサバしていて、落ち着きがあり、いつも閃の暴走を陰から見守っている。頭の回転が速く、事実閃よりも口論は強い。


「まあまあ、いいじゃないか。人間の"個性"ってやつだぜ。俺はネカマがしたいからネカマをしてる。お前は口論が強くなりたいから口論してる。どちらも他人にどうこう言われる筋合いのない、立派な個性だし、趣味の範疇だろ」


「さっき思いっきり否定しただろお前!」


「ははは、ちょっと煽ってみただけさ。あの事件があまりにも面白すぎたからね。君のリア友の、スパイス君?だっけ?その人も腹がよじれるほど笑っていたんだろう?」


「もう俺の黒歴史を掘り返すなよ…」


当然彼らはリア友ではない。ゲーム内でつながった、サーバー上だけの関係である。当然のことだが、閃はAsgard、枇杷はviaという偽名を使い、匿名の世界を旅している。互いにそれなりの信頼はしていたが、いつ裏切られてもおかしくない、そんな状況下での付き合いであることを覚悟していた。

AXO内で、彼らのコンビは世界ランキング26位である。それに加えてチャット上での挑発的な態度と、度々炎上する掲示板への書き込みから、ちょっとした有名人扱いとなっていた。


「あーあ、また7chで晒されるぞ~」


「気にすんなって。批判するのは気になってる証拠。好きの反対は無関心だから、俺らに興味を持った時点で成果が出てるってことさ。実際口論も負けなしだ。とことん戦って、とことん有名になろうぜ!」


「なんだそのガバガバ理論…」


閃は自分の態度を改める気がなく、むしろ誇りに思っていた。誰かを負かすことが全てであり、弱さは罪であると信じてやまず、その傲慢な態度が周囲の目に映ろうとも、全く動じなかった。

今日も彼は、多数の人と口論をし、名声を高める。それが一番かっこいいと信じているから、ただひたむきにその愚行を繰り返すことができている。付け焼き刃の口論技術が、今日も鈍く光るのだ。


「よしよし、誰かがルームに入ってきたぞ。ユーザー名は…天理、か。さーてさっそくケンカ売りますか。via、邪魔せず見てろよ」


「興味ないね」


「天理とかいうやつ、何勝手に入ってきてんの?ここは俺ら二人がプライベートで練習してるルームなんだよ!散れカス!」


理不尽なこじつけ文句を、稚拙な暴言とともに浴びせる閃。それを見た天理は、特に物怖じする様子がなかった。


「お、だんまりでちゅか?日本語がわからないサルは大変だね~」


突然の罵詈雑言に対して戸惑う相手を、適度に煽って憤慨させ、口論に持ち込む。それが普段の閃のスタイルである。

この流れが完成すれば、彼は9割方勝利を確信する。無言で退出しても、1勝利にカウントする。負ける要素が皆無であると、彼は本気で思っていた。


「ほらほらはやくしろよ~」


しかし…?


「うん。なるほど、君は以前ネットで酷い仕打ちを食らったんだね。可哀想に。無差別に突っかかってくるあたり、おそらく常習犯だね。こんな"クソ"みたいな行為を繰り返すってことは、自分だけが理解できる虚ろな栄光をつかみ取ろうとしてるってこと?中二病かな?たぶんそれ自己満足だから、誰にも認められないよ。あと、その過去のトラウマを払拭できる行為だとも思えない。相手に復讐する術がないから、他人でストレス発散?くだらないねー。復讐できないってことは、騙され系の被害にあったんだと思うけど、ネット民のウソも見抜けないのに口論最強とか、頭大丈夫?ネット辞めたら?」


今回の相手である天理は、何かが違った。

普段戦うような単細胞とは大きく違い、相手の痛いところを的確についた反撃が可能な人物だった。

もちろんその想定外の事態に閃は戸惑い、反論できず、黙ったままルームを退出してしまった。


「退出したから、私の勝ちだね。無敗の称号は何処へ?」


「草」


枇杷の送った「草」が、物寂しげな雰囲気で表示された。 

更新日:2019-02-08 10:42:02