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第13章―Ⅰ:乙女達の出逢い
「お誕生日おめでとう御座います!」
「「おめでとう御座います!」」
「これからの益々の御健康と繁栄を祝って、乾杯!」
「「乾杯ー!!」」
大勢の歓声と共にあちこちでグラスをぶつける音が聞こえ、パーティーの始まりを告げるのであった。
*
――ここは酒の大商人マーゴット=アルケマの住む屋敷にある大庭園。
今宵この庭園では彼の七十歳を祝う誕生パーティーが催されていた。
夜だというのに、数多の蝋燭の灯りが辺りを照らし、まるで昼間のような明るさの広い庭園には数多くのテーブルや花々が並べられ、テーブルの上には豪華な食事や高級な酒が所狭しと並べられ、集まった大勢の人々が食事や酒に舌鼓をうっていた。
「いやー、流石フェルティ国一番の大商人マーゴット殿のパーティーだな。酒もだが料理ももてなしも超一流ばかりだ」
「あの方は豪傑で大胆、だが優しくおおらかでもあられる御方じゃ、儂らのような下々の商人にさえ声を掛けて下さるのだからな」
「今年もアルケマ商会は前年比で二割増の利益を叩き出したらしいぞ」
「正にあそこは飛ぶ鳥を落とす勢いだな」
高位貴族から平民の商人まで、身分の上下に関わらずアルケマ商会やマーゴットと交流のある人々があちこちで酒を手に様々な話をしている。
「サーシャ、大丈夫かい?」
「え、ええ…」
そんな中、やはりこのパーティーに招待されたジーフェスとサーシャは簡単な礼装に身をつつみ、会場の比較的人の少ない場所で飲み物を手に人々の様子を見ていた。
「ささやかな誕生パーティーと聞いていましたが…凄い人ですね」
周りの人の多さに、サーシャは早くも疲れぎみである。
「あの人のささやかは当てにならないよ。あの人は国全体でパーティーをやる規模でないと大掛かりと言わない人だからね」
「は、あ…」
ジーフェスの言葉にサーシャはただただため息をつくばかり。
「ここは賑やか過ぎるね。少し場を離れようか」
「ええ」
自分の気持ちを汲んだジーフェスの言葉に、サーシャは素直に甘え、パーティーの会場から少し離れた場所まで移動した。
そこは蝋燭の灯りがほとんど届かない月の光のみが辺りを照らす、大きな噴水のある静かな庭園の一角だった。
「ここなら静かで良いだろう」
「ええ、さっきの場所は人が多くて少し疲れそうだったから、ほっとします」
それでもサーシャ達と同じ考えの人が数人、そこでめいめい落ち着いた時間を過ごしていた。
「すみません団長さん」
パーティーの喧騒から抜けて一息ついていた二人に水を差すように声を掛けてきた人物がいた。
「何か?」
それは屋敷の警護に雇われた私設の護衛部隊の男のひとりであった。
「いや、先程連絡があって、金目当ての賊が屋敷に侵入してきたと」
「賊が?」
「はい、先に私達の仲間が向かってますが、何分我々には逮捕権が無いので自衛団の団長であるジーフェス殿に来て頂けると助かるのですが…」
そう告げて男はちらりとサーシャに視線を向け頭を下げた。
「折角の時間を申し訳ありませぬ。直ぐ終わらせますので何卒御協力お願い致します」
男の懇願の様子に、お互い顔を見合わせ、納得したように無言で頷きあった。
「サーシャ、すまない。すぐに終わらせて戻ってくるからここで待っていてくれ」
「私のことは大丈夫ですので、ジーフェス様はお仕事頑張って下さい」
「ありがとう」
そう告げてジーフェスはサーシャの頬に軽く口付けてから、男と二人屋敷の中へと向かっていった。
「……」
“賊、ね…お仕事なら仕方ないですよ、ね”
独り残されたサーシャは仕方ないとはいえ少し寂しげにため息をついて噴水の傍に腰掛けた。
「「おめでとう御座います!」」
「これからの益々の御健康と繁栄を祝って、乾杯!」
「「乾杯ー!!」」
大勢の歓声と共にあちこちでグラスをぶつける音が聞こえ、パーティーの始まりを告げるのであった。
*
――ここは酒の大商人マーゴット=アルケマの住む屋敷にある大庭園。
今宵この庭園では彼の七十歳を祝う誕生パーティーが催されていた。
夜だというのに、数多の蝋燭の灯りが辺りを照らし、まるで昼間のような明るさの広い庭園には数多くのテーブルや花々が並べられ、テーブルの上には豪華な食事や高級な酒が所狭しと並べられ、集まった大勢の人々が食事や酒に舌鼓をうっていた。
「いやー、流石フェルティ国一番の大商人マーゴット殿のパーティーだな。酒もだが料理ももてなしも超一流ばかりだ」
「あの方は豪傑で大胆、だが優しくおおらかでもあられる御方じゃ、儂らのような下々の商人にさえ声を掛けて下さるのだからな」
「今年もアルケマ商会は前年比で二割増の利益を叩き出したらしいぞ」
「正にあそこは飛ぶ鳥を落とす勢いだな」
高位貴族から平民の商人まで、身分の上下に関わらずアルケマ商会やマーゴットと交流のある人々があちこちで酒を手に様々な話をしている。
「サーシャ、大丈夫かい?」
「え、ええ…」
そんな中、やはりこのパーティーに招待されたジーフェスとサーシャは簡単な礼装に身をつつみ、会場の比較的人の少ない場所で飲み物を手に人々の様子を見ていた。
「ささやかな誕生パーティーと聞いていましたが…凄い人ですね」
周りの人の多さに、サーシャは早くも疲れぎみである。
「あの人のささやかは当てにならないよ。あの人は国全体でパーティーをやる規模でないと大掛かりと言わない人だからね」
「は、あ…」
ジーフェスの言葉にサーシャはただただため息をつくばかり。
「ここは賑やか過ぎるね。少し場を離れようか」
「ええ」
自分の気持ちを汲んだジーフェスの言葉に、サーシャは素直に甘え、パーティーの会場から少し離れた場所まで移動した。
そこは蝋燭の灯りがほとんど届かない月の光のみが辺りを照らす、大きな噴水のある静かな庭園の一角だった。
「ここなら静かで良いだろう」
「ええ、さっきの場所は人が多くて少し疲れそうだったから、ほっとします」
それでもサーシャ達と同じ考えの人が数人、そこでめいめい落ち着いた時間を過ごしていた。
「すみません団長さん」
パーティーの喧騒から抜けて一息ついていた二人に水を差すように声を掛けてきた人物がいた。
「何か?」
それは屋敷の警護に雇われた私設の護衛部隊の男のひとりであった。
「いや、先程連絡があって、金目当ての賊が屋敷に侵入してきたと」
「賊が?」
「はい、先に私達の仲間が向かってますが、何分我々には逮捕権が無いので自衛団の団長であるジーフェス殿に来て頂けると助かるのですが…」
そう告げて男はちらりとサーシャに視線を向け頭を下げた。
「折角の時間を申し訳ありませぬ。直ぐ終わらせますので何卒御協力お願い致します」
男の懇願の様子に、お互い顔を見合わせ、納得したように無言で頷きあった。
「サーシャ、すまない。すぐに終わらせて戻ってくるからここで待っていてくれ」
「私のことは大丈夫ですので、ジーフェス様はお仕事頑張って下さい」
「ありがとう」
そう告げてジーフェスはサーシャの頬に軽く口付けてから、男と二人屋敷の中へと向かっていった。
「……」
“賊、ね…お仕事なら仕方ないですよ、ね”
独り残されたサーシャは仕方ないとはいえ少し寂しげにため息をついて噴水の傍に腰掛けた。
更新日:2019-02-18 10:42:52