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二人の王子

 この世界を司りし秘宝、イプトゥリカ。それは天候を、気候を操り世界に豊かさをもたらすものである。意思を持ち、人々の祈りを力に変え世界を見守るそれは神と呼ぶに相応しい存在である。
 その秘宝が守る世界を脅かす存在があった。白銀の硬い外殻に全身を覆われた、異世界より迷い込みし異形。ガジュマと呼ばれる彼らは人間を襲い、食らう。賢きガジュマは人の世界へ巧みに潜り込み、人間社会を乗っ取ろうと企てる。
 イプトゥリカに守られし世界に住まう人間と、それを奪い取ろうとするガジュマ。長きに渡り攻防を続けてきた両者だが、近年起こっていた激しい争いは収束に向かおうとしていた。

 海上を漂う小さな島。名も無きその島はイプトゥリカが祀られた神殿がある事から、イプトゥリカの島と呼ばれている。
 イプトゥリカの加護により一年中過ごしやすい気候を保っている島は、イプトゥリカによって選ばれた者しか立ち入る事が出来ない。選ばれた人々が定住し、島は一つの国になった。島の国王に選ばれた者はイプトゥリカから特別な力を授かり、同じく特別な力を授かった騎士と共に島を守っている。
 外界との接触が殆どなく、穏やかで静かな島だが、この頃は少し騒がしくなっていた。長年に渡って続いてきたガジュマとの戦いに終わりが見え始め、次期国王は誰になるのか、という話題が持ち上がり始めたのだ。
 まだガジュマとの戦いに決着がついていないというのに、気の早い連中だ、と、溜息混じりの紫煙を吐き出したのは、イプトゥリカの王であるカズマだ。執務室にて、約二ヶ月振りに島へと戻った彼へ様々な報告をする若き高官がその事について触れてきた。
「陛下は次期国王をどうお考えですか?」
 高官は興味津々といった様子だ、カズマは煙草に火を点け溜息混じりの紫煙を吐き出した。
「それを決めるのはイプトゥリカだ、巫女にでも聞け」
 カズマがどう考えようとも、次期国王を決めるのは島の主であるイプトゥリカだ。二人の息子のうちどちらが王になるのか知りたいのであれば、イプトゥリカに仕える巫女に尋ねた方が手っ取り早い。そんな先の事よりも、不在の間に溜まった書類の山の方がカズマにとっては問題だ。あからさまに面倒臭そうな顔をするカズマを見て、若き高官は苦笑いをし、それ以上次期国王については何も言えなくなった。
 仕方なく書類に目を通し始めるカズマの耳に、執務室のドアをノックする音が届く。中へ入るよう促すと、顔を覗かせたのは息子であり次期国王候補の一人であるユウマだった。
「父上、お帰りなさい!」
 満面の笑みを浮かべて側に駆け寄ったが、書類とにらめっこをしている父を見てユウマは申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい、僕に出来る事はしたのですけど……」
 少しでもカズマの負担を減らそうと、代わりに出来る事はしてきたが、王であるカズマでなければ出来ない事も多い。
 カズマは俯くユウマの髪をくしゃくしゃにするように頭を撫でた。
「謝らなくていい。助かる」
 少しでもこの仕事が減るのは有り難い事だ、ユウマはよくやってくれている。短い言葉の中に父の思いを察し、ユウマは嬉しそうに微笑んだ。

更新日:2019-01-24 18:45:53

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ハルモニア -優しき王と白銀の騎士-