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悪が栄えた試しがない……しかし

「ハアハア、俺に労働させるとはな」

「可哀想です、こんなの!」

「黙れ、お花畑が!」彼はマウンテンゴリラの死骸を弔おうとする私の顔に右足蹴をします。「何時から人間様がゴリラに対して権利を与えようと思ったか!」

「そ、そうじゃありません。わ、私は……此のゴリラに対してせめて、もの弔いを、と思いまして」

「必要ねえよ、死骸はクロウ共が食べて糞として変わって其れから自然に帰って更には穀物として他のモンスター共の繁殖の肥やしとして広がる……食物連鎖を知らんと言わせねえぞ!」

「わかっております。私達が誰かを殺さないと生きていけない業を持つ事は」

「業だと? 随分とお花畑な思想を信じ切っているじゃないか。わかっている筈だが、此奴等が俺達に歯向かうからいけないんだよ。死にたくなければ黙って俺達を見逃せば……クックック、砕いた頭蓋骨の欠片を此の様に!」

「イッ!」其の欠片で私の左頬に斜め下に向かって刻み込む一本線の傷を付ける彼。「酷い……ゴリラの脳を酷い有様にする処か其の骨の欠片でこんな望まない事をするなんて!」

「死ねば魂魄は宿らん。ゾンビ化する事もゴースト化する事もない筈だがな……此処、シナップスの森では」

「知っていてそんな酷い事をするの?」

「何を言ってるんだ、てめえは? 魂が平等に浄化するから俺は此奴の死体を道具のように扱えるんだよ。漁場でも活き締めした魚の部位は競りに出されて部分を購入した漁師共は好きなように扱っているだろう? 此れをお花畑の論理では酷い事だと……笑えんな」

「今日明日の糧にする物と貴方の振る舞いを一緒にしないで下さい!」

「同じだ、お花畑よ。此処で貴様を始末しても良いけど、其れじゃあ俺の安全は保障出来ない」彼は私の顎を抓んで黄金の瞳を自らの瞳に向かって真っ直ぐ見られるように持ち上げる。「原理不明だが、其の弓道使いの使用する魔術と同じ能力は金儲けに使える!」

「え……」彼の眼が一瞬だけ銀色に輝く--瞬きの後は元の黒い瞳に戻る。

「ち……どっから此の情報を得たんだよ。弓道使いだと……俺の知っている中で複製が得意な弓道使いなんて聞いた事も見た事もねえ。本当にとんでもない話だよ」

「独り言しちゃいけません。鼻で呼吸を……フグッ!」

「てめえは何時から俺に対等の意見が利けると思っているんだ」私の鼻に左裏拳した後に右足で何度も私の背中付近を足蹴する悪い人。「今のてめえは最重要人物じゃねえ、金儲けの道具として此れから口の利き方を学べよ!」

「酷いです、こんなの死んだゴリラは報われません!」

「知るかよ、俺に襲い掛かったから死んだんだ。其れに……脳髄は生でも美味いかも知れない」早速、傍に居たモンキーの死骸三匹を含めて食事の準備を始める彼。「本当はてめえのような塵は餌を与える事も耐えられん……が、能力が使えないと思ったら鱈腹食べさせてストレスを解消させる方が余程効率の面でも良いので特別に好きなだけ食べろ!」

「え、私はそんな事を……」「黙れよ、此の先に食べ物があり付けられると思うなよ……折角俺が効率を優先したんだよ、食べて少しは思い出の場所を忘れる準備でもしろ!」やっぱり悪い人です、彼は!

 そんな悪い人は私を殺すつもりはありません。自分の為に私を生かす気なのです。其れが如何ゆう結果を齎すのであれ、私は彼の共犯をさせられるでしょう。此処から逃げても良いですけど、そんな事はしたくありません。彼の、彼の事を未だ未だ知る迄は絶対に此処から逃げ出したくありません。なので私はそんな彼の気紛れを信じて行動を共にしようと思います。

 あ、此の物語ですか……「あ、又……蒼い空に窪みが見える」

「嫌な窪みだ。俺を見下しているようでさっさと壊してやりたい!」

「駄目ですよ、ヴェイダー。其れは伝承に依りますと『覇者の大地』かも知れません!」

「知るかよ……と言いたい所だが、何だ其の何とかってのは?」

 其れはあの蒼い空に時々見える窪み……『覇者の大地』を巡る記憶の世界の物語。そして、私を誘拐した彼こそは此の物語の主人公『ヴェイダー・クロノス』。

 彼の悪が世界を変える遠い遠い未来の悪党群像劇なのです!

更新日:2019-02-18 05:10:39

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