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小説

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望んだ力と求める未来

 ティアラ=ウィリアムという女性が自らの過去を振り返ってみれば、それは"何一つ不自由のない生活"という表現に尽きる生活環境から始まったと言える。
 惑星同士の過干渉を監視する組織、星間連合の管轄内に存在する星の1つ、惑星"エルラウンド"こそが彼女の故郷であり、文明レベルという点では他惑星に後れを取るものの、豊かな自然とそれに伴う豊富な資源を有した土地だった。
 加えて、惑星全土を統治する"ウィリアム王国"の第一王女という立場で生を受けた彼女にとって心優しき家族と臣下、豊かな生活を送る民に囲まれた環境はまさしく楽園と呼ぶべき環境に他ならず、王族としての務めを果たす為に自らを鍛えることも厭わなかった彼女はいつしか、王国一の使い手と呼ばれる程の槍の腕前を持つに至ったのである。
 そんな力も、外宇宙から押し迫る異文明の侵略という事態を前にしては、あまりにも無力であったと言わざるを得ない。
 ヒトを遥かに超越した存在、見上げるような巨体によって振り撒かれる暴力を伴った圧倒的な威圧感。
 ほんの腕の一振りで見慣れた風景が原型なく打ち砕かれる姿は理不尽の権化とも言うべきであり、見慣れた筈の日常風景のことごとくを奪い去っていった。
 国を守るべく槍を伴っって果敢に挑む騎士たちに紛れ、ティアラもまた果敢に挑むが相手は鋼の身体を持つ巨人であり、掠り傷1つ負わせられない相手を前に太刀打ちできる道理は無い。
 守りたかった多くのものが、力及ばぬ自らの目の前で容赦なく奪われていく。
 王族としての誇りや騎士として立てた誓いなど何の役にも立たぬのだと嘲笑われるかのような現実を目の当たりにして、なお膝を着くことなく最後まで相対する敵を睨み付けて居られたのは、偏に理不尽に屈してなるかという意地の一念に他ならなかった。

 その一念が実った訳ではないのだろう。
 それでも全てが終わり廃墟と化した故郷の大地を踏みしめたまま、彼女は生き残った。

 自分を支えていた全てのものが砕け散り、ただそこにあるだけの命にしがみ付きながら、しかし己の欲望のままに力を振るう無法者たちの愉悦と嘲笑をその一身に受け続けた彼女は、無力な己に出来る最大の抵抗を試みていたのだ。
 それは純粋な怒りの感情によって、心の刃を研ぎ澄まし続けること。
 理不尽を振り撒く悪意に対する怒りのみでは足らない、己の無力さへの嘆きや悲しみすら取り込んで、ただ目前の敵対者にその視線を叩き込み続けたのである。
 しかし、力の伴わない感情が現実の理を塗り替えることはなく、興の削がれた無法者たちはティアラに残された唯一の抵抗の目を摘み取るべく、無慈悲にもその鋼鉄の手を差し出した。

 その運命は、ここで転換する。

 自らを捕らえんとする巨大な腕が、その根元から寸断されたのである。
 そしてティアラが目前の出来事を正確に理解するよりも前に、事態は更に一歩先を行く。
 天から飛来した巨大な紅い人影が、轟音を撒き散らしながら大地に降り立ったかと思うと、その巨体に似合わない素早い動きで、手にした両刃の剣を躊躇なく振り抜いたのである。
 その刃の矛先となった者は、自分の身に何が起こったかを理解する間もなくその意識を手放すこととなった。

『……間に合わなかったか。すまない』

 悔恨の念に囚われた紅い巨人の呟きは、ティアラの耳に確かに届く。
 手にしていた槍を思わず取り落とすほどに心に響いたその言葉に、理解の及ばない呆然とした思考から現実へと自らを引き戻したのは心の内から湧き上がったのは安堵と、そしてもう一つ。
 どうして皆を守ってくれなかったのかという喉まで出かかったその言葉を、彼女は必死に噛み殺す。
 人々を守るべき立場にあったのは王族の自分であり、その役割を果たせなかった自分に誰かを責め立てる権利などはないのだと、思い至ったからである。
 ただ、無法者を容易く蹴散らす雄々しき乱入者の姿に"勇者"を見た彼女は、その力が自分にもあればと強く望んだ。
 王としての制約も、騎士としての誓いも守れない自分自身を変えるだけの、大きな力を手にすることができたなら、と。
 そんな彼女の視線を背に受けながら紅い巨人、勇者は一人、数の上では圧倒的に不利な状況に於いて微塵たりとも怯むことなく剣を構える。
 灼熱の炎を思わせる深紅のボディとその両手に納められた両刃の長剣、そしてその胸部に掲げられた剣の紋章。

『せめて、この星に巣食う悪意は全て斬り捨てる……勇帝機兵、ルーンカイザーの名に賭けてッ!!』

 迫る悪意に怯むことなく、己への無力さすら前へ踏み出す為の力に変えて怒り剣を振りかざす真紅の勇者。
 勇帝機兵ルーンカイザーは、たった一人で無数の悪へと立ち向かう。

更新日:2018-12-29 12:23:38

勇者機兵キャリバー外伝 望んだ力と求める未来