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03

妹たちはもう嫁いでいて休みの日には子供を連れてよく遊びに来ていた
私は姪や甥にお菓子を出すのがうれしくてついつい余分に与えてしまい妹たちに叱られている

母さんが亡くなってから父さんは目に見えて元気が無くなり
あっけなく後を追った
彼とはかれこれ50年以上一緒にいた事になるだろう
記録メモリーを見るとついさっきまであの狭い部屋で不細工だった私をいとおしそうに眺めている彼がいるのに
ここから先彼のデータが更新されることはないのだ

妹たちは目を腫らし、父さんに縋り付いている
私は少しだけ離れた位置でそれを見る事しかできない
このボディにも目の洗浄の為に涙を流す機能は有るし、感情に同期して涙を流す事も出来る
それでも私は涙を流す機能を止めていた
私は目を伏せ、ただ妹たちを見守っていた
上の妹に家に来ないか誘われたが辞退した
姪や甥に泣かれたのはつらいけれど、きっとお菓子を持って訪ねると言ったら最後は笑顔で別れられた
私は少し前から船に申請を出し、以前マスターがやっていた店を引き継ぐことにした
家の整理はもうほとんど済んでいて、近いうちに船に変換される事になっている
私は自分の荷物を整理して引き車に積み上げた
船に乗った時は何も持たなかったのに、今度はずいぶん大掛かりになっている
この荷物の重さはここで生きた証しなのだろう
10分ほどのこの道ももう通る事はそうそうないだろう
バイトを始めた日マスターに怒鳴られたなとか
妹たちと歩いた事もあったなとか
なんだか走馬燈でも見るように記録ファイルが勝手に映し出されていった

店に着くころにはもうあたりは暗く、歩く人の喧騒は遠い
私はポケットから鍵を取り出しシャッターを開ける
もう数年使われていないため少し埃っぽいけれどきちんと手入れがされた道具が迎えてくれた
マスターが私のことを思い残してくれたものだと思う
これなら少し掃除をするだけですぐに開店できるだろう
私物を居住スペースに置くため二階に続く階段を登った

ふとセンサーに何か反応した
金品の概念が薄いこの世界で泥棒もないだろうけれど
それでも危害を加えようとする人間がいないわけでもない
私は用心をしながら進み、反応の有った部屋の奥に向かう
建物のシステムと無線接続をし、部屋の明かりを最大光度で点けつつ声を上げた
「そこにいるのは誰!?」
部屋の隅でうずくまっていたそれは跳ね上がり、驚いたようにこちらを振り向いた
それは小さな少女のようで、どことなく私に似ていた
私の後継機のようだった
ただ中にいるのが人なのかロボなのかは判断できない
「そこで何をしているの?」
返事はなかった
ただこちらを凝視し、逃げるためにすきを窺っているようだ


状況を整理する
中身が人間であった場合、おそらく家出だろう
チップ人間の私とは違い基本的には実年齢のボディを使う
家出の理由は解らないけどこの年齢だ、親と喧嘩したり窮屈なこの世界から逃げたくなったなど普通に考えられる
ただ、全身を機械のボディに変えた話は聞いたことが無い
家出の理由もそのあたりなのかもしれない

中身がロボ・AIだった場合
これは正直解らない
AIが命令を完全に無視して脱走するなど思いもしない
それほど徹底した管理がなされているのだ
疑似的な人格があれど、結局本当の意味の意志は今のところ芽生える兆候が無い
これは別に元人間な私が自分を特別扱いするために評価したのではなく
むしろ自分に似たAIなら長く一緒にいられるんじゃないかとそう期待しているからだ

そして対応についてだけど、どちらにしても船の管理センターに連絡する他ないだろう



※ここまでで途切れてますね
この後の宇宙船内の出来事は大雑把にしか考えておらず
新惑星に到達前からその後の辺りは結構考えてました
続きを書くモチベーションは微妙

更新日:2018-11-21 02:31:02

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宇宙船になった話(成らずに未完)