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第6話 真夜中の旅立ちと出撃


 …ショウクトは、兄であるヤドゥーマを補佐しながらも、
 自らは、アスカの国のモビルスーツエンジニアであったことが
 明らかとなった。

 その昔、彼は当時ミシマの国へと潜入、運よく現地で王家に
 仕える者として雇い入れられ、以後、同国のモビルスーツの
 メカニックとして、その身を置くこととなった。
 そして…。
 現地でモビルスーツ製造に関する多くの情報を片っ端から
 奪い、自国に帰国し、まもなくあのダイバーガンダムを
 完成させたのである…!

  「あの頃は面白かったな。…いや、毎日が楽しかった」

 薄暗い闇の奥に…何かがみえる。
 ショウクトは照明を灯した。
 そこに、人型の戦闘兵器…モビルスーツの姿があった。

  「ダイバーガンダム…」

 その名前がイヨの口を突いて出た。
 そこにある機体…それは、明らかに覚えのある、その相貌の
 モビルスーツであった。

  「…こいつを完成させるなり、兄さんは目の色を変えた。
  いや…全く別人になってしまったような気さえした…」

 おそらくは、そのときある意味の「力」というものを手にいれた
 おかげで、ヤドゥーマはこれまで抑え込んでいた自分の欲望か
 何かが一気に膨れ上がり、そして…ついにはそれが爆発して
 しまったに違いない。

  「お兄さんを止めることは…できなかったの?」

 …ショウクトはそれに答えなかった。
 ならば…口出しなどできなかったのかもしれない。
 兄弟として…イヨはふと、自国のモビルスーツエンジニア
 である、ギナザ・イ・カミキの事を思い出した。
 なぜなら彼にも子供たち…姉弟がいる。
 しかし、ショウクトたちに比べて、彼女らは互いに
 信頼しあい、そして仲も良い。
 またそれは…自国の王妃、コヒミと、ヤヨイの国の王、トート
 にもいえた。

  「実はあのケイタル…いや、ルケイタさんを助けてからまもなく、
  兄さんは城内の人間に生体科学を研究させ、そのある実験台
  として、彼に無理やり記憶を刷り込ませたんだ…」

 …いやしくも、もと国王の彼を…ヤドゥーマは彼のその素性を
 知りながらも、酷い実験を施したに違いない。
 ルケイタも、そのときの苦しみは、いかほどのものだったので
 あろうか?

  「酷い…なぜそんなこと…」

 イヨも思わず言葉を失う。
 それでもあのとき、「自我を取り戻した」彼が、自分を
 助けようとしたのだ。

  「そこまでやるなんて…もはや兄さんが人でないような
  気さえした。いや…もう、ついていけなくなった。だから…
  俺はダイバーガンダムで、母さんや弟に何も言わず逃亡
  した」

 …飛び出したとはいえ、そのときショウクトもなにか耐え切れ
 なかったのだろう。

  「あなたがなぜ、周りの目を気にして暮らしているのかが…
  これでようやく分かったような気がしたわ」

 イヨの顔はやや強張っていた。
 …察するに、こんなものを作ったのが彼であったことが、
 どこかで国中に知れ渡っているのかもしれない。
 ならば…そんな戦争用の兵器を生み出した彼を、恨まない
 者たちがいないわけがない。

更新日:2018-12-30 16:50:36

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機動古代戦士 KBガンダム外伝/新王の帰還