官能小説

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ななじゅういち〜マリウス視点

――どくんどくん。

僕の心臓が、今までにない位激しく鼓動を刻んでいる。
無理もない、目の前にはずっと、この半年間ずっと捜し続けてきた彼女の姿があるのだ。

ローラ…いや、フローラは腰近くまであった髪をばっさりと肩上に切り揃えていて、地味な服装をして化粧っけも無く、最後に見た時より痩せているように見えた。

「フローラ…」

やっと、やっと逢えた!フローラに逢えた!

どうして君はこんな場所に居るのか、何をしてきたのか、今は何をしているのか?

聞きたい事が、言いたい事が後から後から溢れてきて頭の中が一杯になってしまう。
そして何よりもフローラに、彼女に出逢えた嬉しさで胸が一杯になってしまい、何一つ言葉が出なかった。

「フローラ…」

僕はただ、歌箱のように同じ言葉だけを繰り返し、目の前の彼女を見つめるだけだった。

それは彼女も同じだったらしく、驚いたように瞳を見開き、驚愕の表情を浮かべてじっと僕を見て固まっている。

「あ、あの…あたし、帰るね!」

僕らの様子に何か察したのか、一緒に来ていた女がそう告げて逃げるように去っていき、取り残された僕はフローラと二人きりになってしまった。

「あ…その…ここでは何だからその…狭くて汚いところだけど、良かったら中にどうぞ」

女が去って我に帰ったのか、フローラは僕から視線を反らしてありきたりの言葉で僕を迎えてくれた。

「あ、ああ…」

僕はそれだけ返事をすると彼女の後をついて行くようにして小屋の中に入っていった。

小屋の中はもともと物置として使われていたのだろう、ひとつの部屋のみで出来ていて粗末なベッドに小さなテーブルと椅子、古びた食器棚とクローゼット以外の家具は無く、後で取り付けたのか隅のほうに小さく竈らしきものがあり、ちろちろと火が灯っていて、上にはやかんに入っているだろう湯が沸いて音をたてていた。

僕はそんな室内を見回しながら何となしにそこにあった椅子に腰掛けた。
テーブルの上には野の花を挿した小さな花瓶があって、薄暗い室内で唯一の明るさを醸し出している。

そんな中でフローラは棚から古びたポットとカップを取り出し、茶葉と湯を入れ、暫くするとカップに中身を注いでいった。

「御免なさいね、大したものが無くて」

「いや…」

フローラは温かいお茶を遠慮がちに僕に差し出した。茶特有の香ばしい香りが辺りに漂っていく。
僕はその香りに惹かれ、カップを手にし中身を口にした。が、余りの熱さについ顔をしかめカップを下に置いてしまった。

「やっぱり口に合わなかったかしら…」

「いや違う、ちょっと熱くてびっくりしただけだ」

僕は軽く火傷をした舌先を露にし、手で扇ぐように冷やしていると、フローラは少し嫌悪感に表情を歪めた。

「大丈夫、君のせいじゃない。僕が慌てていたせいだ」

「でも…」

フローラを庇いながらも彼女を見ていると、僕の視線に気付いたのか彼女はふっと僕から目を反らしてしまった。

それきり僕達は会話が途切れてしまい、嫌な静寂が辺りを包んでいく。

彼女に聞きたい事や話したい事は沢山ある。だが何処から切り出したら良いのだろうか、僕はずっと悩んでいた。
だが彼女も同じ事を考えていたのか、やはり俯きがちに僕から視線を反らして黙ったままでいる。

どうやって話を切り出そう。どんな内容なら自然だろう?

…どうして君は此処に居るんだい?家族が心配していたよ。

うん、これなら自然だよな。これでいこう!

「フローラ!」

「マリウス…」

更新日:2018-11-13 09:15:17

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