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結合
非番の日の明るい昼間…佐野は和泉と街を歩いていた。
若い和泉と並んで歩く自分が、周囲からどう見られているのか気になり、佐野は落ち着かない。
自分と和泉は…人に決して言えぬ関係にあるのだ…そう思うと妙に落ち着かなかった。
しかし、和泉は全く意に介する様子もなく、屈託のない笑顔を時折見せながら、隣を歩いている。
…まあ…都会の賑やかな街を歩く二人連れを、特に気にする者などいないのかも知れない。
和泉の笑顔を見ながら佐野は思い直す。
何だか肩の力が抜けた気がした。
佐野は自然と、和泉の取り留めのない話に笑顔で相槌を打っている自分に気付いた。
隣を歩く和泉の、小柄な体…
こざっぱりした服装の、いつもホームで会うときと変わらぬ和泉。
佐野の方は、いつも駅員の制服姿しか和泉の前で見せていなかったこともあり、部屋を出るとき、何を着ていこうか迷った。
これは一応“デート”なのだろう…近所にサンダル履きで買い物に出かけるのとは違うのだ…
結局、制服とあまり変わらぬ感じの白い半袖シャツを袋から出して袖を通した。
清潔感が大事だからな…ボタンを留めながら思う佐野。ズボンも折り目の付いたスラックスを選んだ。
…やっぱり、そう変わらんか…
洗面台の鏡に映る自分を見て苦笑する佐野。
でも…服装を気にするなんて時間を過ごすのも久しぶりだなと思い、少し楽しくなった。
そんな楽しいながらも少し緊張した気分で、待ち合わせ場所に向かったのだった。
隣の和泉を横目でチラリと見る。
和泉より背の高い佐野の目が、薄いブルーのシャツの襟足から覗く和泉のうなじを捉える。
自分は、このうなじから続く背中を知っている…宿直室で抱いた身体…なめらかで無駄のない、シミひとつない綺麗な背中…
佐野は和泉に気付かれぬよう、そっと唾を飲み込んだ。
…………
ふたりで映画を見た。
映画は和泉が見たいと言う外国の映画にした。
映画館で映画を見るのは何十年ぶりだろう…
独りが長く、映画もたまにテレビで見る程度だった佐野は思う。
内容は派手なアクションなどもなく落ち着いたヒューマンドラマもので、疲れ気味の佐野は少々眠気を感じたが…ふと脚が、隣の和泉の脚と触れ、ハッとした。
和泉は脚を引くことなく、ピタリと膝同士を触れ合わせたままにしている…
ここで自分が脚を戻すのも、年長者として男としてみっともない気がして…そのまま和泉のしたいようにさせてやることにした佐野。
冷房の効いた館内で、和泉と触れた部分から伝わる温もりが心地良く感じられた。
佐野はそっと膝を押し返してみた。
和泉も静かに押し返してくる。
そのやり取りが何だか楽しかった。
この子は…隣に座るこの子は、俺のことが好きなのだ…自分は好かれ…求められているのだ…
そう思うと和泉がこの上なく可愛く感じられた。
佐野は暗闇の中、隣の席の和泉の手を求め…そっと握ってやった。
和泉は一瞬驚いたようだったが、スクリーンを見たまま、佐野の手を握り返してきた。
こんなドキドキするような体験…女にも奥手で今まで生きてきた佐野にとっては初めてだった。
手の中にある細い和泉の指や手が愛おしかった。
スラックスの中で性器が少し反応し…佐野は慌てながらも、暗闇の中、和泉の手を握り続けていた。
……………
若い娘たちが目立つ小洒落たカフェは、さすがに落ち着かなかった。
佐野は変に甘いコーヒーを飲みながら、今見た映画のことを楽しげに話す和泉を眺めていた。
この子といると…こんなふうに、普段とは違う日々が過ごせるのだろうな…
今日のことを反芻しながら、佐野はテーブルの向かいにいる和泉の笑顔を見つめる。
父子ほど年の離れた自分と和泉。
仲の良い親子や、進学で上京した息子の様子を見に田舎からやってきた父親なんかに見られるかも知れないな…
そう思うと佐野は面映い。
「晩ごはん、僕が作ろうと思うんですが…佐野さんの部屋で。いいですか?」
急に和泉が言った。
「う?うん…ああ、いいよ。料理、できるんだね」
少し胸をドキドキさせながら応える佐野。
部屋に和泉が来る…和泉は今夜、泊まっていけるとは前から言ってはいたが…
急にそれが実感を伴って迫ってきた。
……………
「佐野さん、何か食べたいものありますか?」
「…特にないけど…和泉くんの得意料理なら何でもいいよ」
「…冷蔵庫にあるのは…」
「あまり自分では料理をしないからなあ…恥ずかしながら。野菜も肉も大してないんだ」
そんな会話を交わしながらスーパーで食材を選ぶのも、何だか楽しかった。
テレビを見ながら、台所に立っている和泉の後ろ姿を時折見る時間も楽しかった。
部屋に料理の暖かな匂いが満ちてくる。
俺の部屋がこんな匂いで満たされるのも久しぶりだな…
和泉の背中や小さな尻を見て、胸が高鳴るのを自覚しながら佐野は思う。
若い和泉と並んで歩く自分が、周囲からどう見られているのか気になり、佐野は落ち着かない。
自分と和泉は…人に決して言えぬ関係にあるのだ…そう思うと妙に落ち着かなかった。
しかし、和泉は全く意に介する様子もなく、屈託のない笑顔を時折見せながら、隣を歩いている。
…まあ…都会の賑やかな街を歩く二人連れを、特に気にする者などいないのかも知れない。
和泉の笑顔を見ながら佐野は思い直す。
何だか肩の力が抜けた気がした。
佐野は自然と、和泉の取り留めのない話に笑顔で相槌を打っている自分に気付いた。
隣を歩く和泉の、小柄な体…
こざっぱりした服装の、いつもホームで会うときと変わらぬ和泉。
佐野の方は、いつも駅員の制服姿しか和泉の前で見せていなかったこともあり、部屋を出るとき、何を着ていこうか迷った。
これは一応“デート”なのだろう…近所にサンダル履きで買い物に出かけるのとは違うのだ…
結局、制服とあまり変わらぬ感じの白い半袖シャツを袋から出して袖を通した。
清潔感が大事だからな…ボタンを留めながら思う佐野。ズボンも折り目の付いたスラックスを選んだ。
…やっぱり、そう変わらんか…
洗面台の鏡に映る自分を見て苦笑する佐野。
でも…服装を気にするなんて時間を過ごすのも久しぶりだなと思い、少し楽しくなった。
そんな楽しいながらも少し緊張した気分で、待ち合わせ場所に向かったのだった。
隣の和泉を横目でチラリと見る。
和泉より背の高い佐野の目が、薄いブルーのシャツの襟足から覗く和泉のうなじを捉える。
自分は、このうなじから続く背中を知っている…宿直室で抱いた身体…なめらかで無駄のない、シミひとつない綺麗な背中…
佐野は和泉に気付かれぬよう、そっと唾を飲み込んだ。
…………
ふたりで映画を見た。
映画は和泉が見たいと言う外国の映画にした。
映画館で映画を見るのは何十年ぶりだろう…
独りが長く、映画もたまにテレビで見る程度だった佐野は思う。
内容は派手なアクションなどもなく落ち着いたヒューマンドラマもので、疲れ気味の佐野は少々眠気を感じたが…ふと脚が、隣の和泉の脚と触れ、ハッとした。
和泉は脚を引くことなく、ピタリと膝同士を触れ合わせたままにしている…
ここで自分が脚を戻すのも、年長者として男としてみっともない気がして…そのまま和泉のしたいようにさせてやることにした佐野。
冷房の効いた館内で、和泉と触れた部分から伝わる温もりが心地良く感じられた。
佐野はそっと膝を押し返してみた。
和泉も静かに押し返してくる。
そのやり取りが何だか楽しかった。
この子は…隣に座るこの子は、俺のことが好きなのだ…自分は好かれ…求められているのだ…
そう思うと和泉がこの上なく可愛く感じられた。
佐野は暗闇の中、隣の席の和泉の手を求め…そっと握ってやった。
和泉は一瞬驚いたようだったが、スクリーンを見たまま、佐野の手を握り返してきた。
こんなドキドキするような体験…女にも奥手で今まで生きてきた佐野にとっては初めてだった。
手の中にある細い和泉の指や手が愛おしかった。
スラックスの中で性器が少し反応し…佐野は慌てながらも、暗闇の中、和泉の手を握り続けていた。
……………
若い娘たちが目立つ小洒落たカフェは、さすがに落ち着かなかった。
佐野は変に甘いコーヒーを飲みながら、今見た映画のことを楽しげに話す和泉を眺めていた。
この子といると…こんなふうに、普段とは違う日々が過ごせるのだろうな…
今日のことを反芻しながら、佐野はテーブルの向かいにいる和泉の笑顔を見つめる。
父子ほど年の離れた自分と和泉。
仲の良い親子や、進学で上京した息子の様子を見に田舎からやってきた父親なんかに見られるかも知れないな…
そう思うと佐野は面映い。
「晩ごはん、僕が作ろうと思うんですが…佐野さんの部屋で。いいですか?」
急に和泉が言った。
「う?うん…ああ、いいよ。料理、できるんだね」
少し胸をドキドキさせながら応える佐野。
部屋に和泉が来る…和泉は今夜、泊まっていけるとは前から言ってはいたが…
急にそれが実感を伴って迫ってきた。
……………
「佐野さん、何か食べたいものありますか?」
「…特にないけど…和泉くんの得意料理なら何でもいいよ」
「…冷蔵庫にあるのは…」
「あまり自分では料理をしないからなあ…恥ずかしながら。野菜も肉も大してないんだ」
そんな会話を交わしながらスーパーで食材を選ぶのも、何だか楽しかった。
テレビを見ながら、台所に立っている和泉の後ろ姿を時折見る時間も楽しかった。
部屋に料理の暖かな匂いが満ちてくる。
俺の部屋がこんな匂いで満たされるのも久しぶりだな…
和泉の背中や小さな尻を見て、胸が高鳴るのを自覚しながら佐野は思う。
更新日:2019-02-23 10:13:33