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真冬の夜の夢


それは週末の夜、ほろ酔い気分で帰宅途中の出来事でした。
土曜日に出勤させた部下を労う気持ちで軽く一杯引っ掛けて、電車に乗った私は、先頭車両の一番後ろに空いている席を見つけると、窓側の席に腰を下ろしました。
すると程無く、二人連れの若い女性が私の方に近づいてきました。

「宜しいでしょうか?」
「はい、どうぞ!」

彼女たちは揃ってコートを脱ぐと、それをまるで膝掛けのように置きながら、私の向かい側の席に並んで座りました。
私から見て左側(窓側)は、桜田由香里嬢に似た感じのほっそりとした娘で、白いタートルネックに黒いミニスカート。
右側(通路側)は河田桃子嬢を連想させるような感じの娘で、明るい紫の服にグレーのミニスカート。
二人とも黒のロングブーツを履いていました。


(この娘たちを闘わせれば・・・)

私はジロジロと見ないように、窓外をぼんやり眺めている振りを装いながらも、窓に反射する二人から片時も目が離せませんでした。
時折笑顔を見せる二人は、並んで座った時から、親しい友人同士のように物静かにお喋りを続けている。

(やっぱりOL同士で、三角関係辺りが妥当かな・・・)

シチュエーションも決まり、さあいよいよ試合開始と思った瞬間、私の耳に信じられない言葉が飛び込んできました。

「自分が何をやってるか判ってんの?」
「アンタにそんなこと言われる筋合いは無いわよ!」

決して声を荒げる事も無く、キーキーと喚き散らすような事もせず、淡々とお喋りをしているように見える二人は、言い争いと言うよりは寧ろ口喧嘩をしているようでした。
目の前で繰り広げられる光景に、早くも私の息子は反応を始めてしまった。


(これは面白い事になってきた・・
 っと、その前に・・・)

私は、ポケットから文庫本を取り出す振りをしながら、窓際に掛けたコートを取ると、そのまま膝の上に置いてズボンの膨らみを隠しながら、なるべく直視しないように事の成り行きを見守っていました。

流石に土曜日の夜更けとあって、電車の中は立っている人がチラホラ居る程度で、おまけに私達の座っているボックスシートの通路を挟んだ反対側はトイレが有る所為か、彼女たちの諍いには誰も気付いている様子はありません。

ガタンガタンと単調な音にかき消されがちながらも、時折辛辣な言葉が耳に届く度、私の息子もビクンビクンと痙攣を繰り返していると、電車が次の駅に到着した。
何気なく扉の方を見ると(と言うより、扉の方を見る振りをしながら前の二人をチラッと盗み見たのですが)、ほっそりとした若い女性が乗り込んでくるなり、こちらに近づいて来ました。
どことなく能見佳容嬢に似た感じの彼女は、私の隣が空いているのを見つけると、迷う事無く声を掛けてきました。


「隣、座らせて貰っても良いですか?」
「はい、どうぞどうぞ!」

(こんな事があっても良いのだろうか・・
 土曜日まで仕事をしたご褒美なんだろうか・・)


こみ上げて来る嬉しさを押えながら、少し窓際による素振りを見せると、彼女もまたコートを膝掛けのように置きながら私の横にサッと座りました。
並みの成年男性より横幅のある私の隣に座った彼女は、少し窮屈そうにしていましたが、若い女性と密着するように座っている私は、嬉しさが顔に出ないようにするのに必死です。
そうこうしているうちに電車が動き出すと、再び窓外を眺める振りをしながら窓に反射する前の二人を見つつ、腕越しに伝わる隣の女性の感触を楽しんでいました。


更新日:2018-09-28 22:06:29

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