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スキルを使う

夕暮れが近づき混雑していた城の周りも人通りが減り始め
逆に夕飯の買出しに歩く主婦達で商店街はごった返している
とりあえず配達ギルドはまたでいいけど
冒険者ギルドへの報告は今日行う必要があるだろう

混雑している商店街は避け、大回りになるがひとつ隣のルートを通る事にした
以前語った通りこの町は迷宮になっている。
近くにあるように見えて遠く、
遠回りのようで案外近い

入り組んだ路地は日が当たらない場所も多い
この辺りは一日の殆どで日が陰り、陰気な気配が漂う
そのためか距離的には繁華街のすぐ近くにもかかわらず
あまり人が住んでいないが
流れ者が流れ着く場所には成り易い

人通りの無い通路をやや早足で歩く
この街はけして治安が悪い訳じゃないけど
スキル査定に使わなかった硬貨がまだ手元に残っているのもあり
気持ちがはやる

そう言えばと、スキルを貰った事を思い出し、折角なので使ってみる
一度に色々付いたので把握もまだちゃんと出来ていない
とり合えず冒険者ギルドまでの道の間に歩きながら使えそうなのを試してみる

とり合えず簡単そうなところで『迷宮の運送術』
袋状になったものやポケットに収納空間に繫がる入り口を作る
ポケットに手を入れると脳裏に箱のようなイメージが浮かぶ
それを押すイメージを持つと手に当たっていた布地が消え
広い空間に手を突っ込んだ感覚に切り替わった

2m×2m×2mの空間があるらしいが、
入れるのはともかく取り出すにも手が届かない
持っている魔法のカバンから今朝入れたナイフを取り出す

「あれ?どうやるんだ」

手をポケットから出すとスキルが解除される
ナイフをポケットに突っ込もうとしてもスキルが発動しない

「???」

手のひらに石を握りポケットに入れスキルを使う
空間に石を話すと落ちていく。
すると箱のイメージに枠が付き、枠の中に石が見える

「機能はしてるのか?でもこれ使い道ないんじゃ…」

そう思いつつナイフを持つ手を見ると手のマークのような物が見え
それを押すイメージを持つとナイフが消え箱のマークの横に枠が増え
ナイフが見える

「ああ、これが運搬術ね」

使いこなすには癖があるけどうまく使えば便利かもしれない
ポケットに手を入れたまま片手を魔法の鞄に入れナイフをカバンに、
ランタンをポケットに
これならギフトスキルを隠したままでも怪しまれずにアイテムを取り出せる
このくらいのギフトスキルくらいならそこまで珍しくは無いけど
自分くらいの年齢の人間であまり高性能なスキルを使うのは悪目立ちする
まして倉庫ほどの収納能力を持つスキルは聞いたことが無い
まぁ隠して使っている人もいるのだろうけど

とりあえず硬貨をポケットに
残りはカバンに移しておく
ポケットに入れた手の中にアイテムを出す事も出来るので
財布代わりに使うには便利かもしれない

今度は地図を出してみる
地図を出しても周りの景色は同時に見えているので特に不便は無い
今居る場所を見ると目立つ点が見える
他には特に無いが色々いじれそうな記号はある

「んー?どれがなにやら」

地図を見ながらでも景色は見える
でも意識を地図に向けていると周りが見えなくなる
僕は地図に意識を向けたまま歩いていたせいで周りに気を配っていなかった
横からぶつかった衝撃でようやく人が近づいていた事に気が付いた

普段ならこんな凡ミスしないのにと自嘲しつつ起き上がる
一瞬見えた人影が小さかった為同じように倒れていると思ったのだが
見ると小さな人影は何事も無かったように突っ立っていた

「すみません、考え事していたせいで」
「…こっちもごめん」

フードを目元まで被ってボロボロの外套をまとっている
顔は分からないが多分女の子だろう
いくら気を抜いて不意を付かれたといえ
自分より小さい子の体当たりでこけた事と
相手はケロッとしている事で不甲斐なさがこみ上げる

「えーと、怪我とかは無い?」
「大丈夫、兄さんこそ大丈夫?」

恥ずかしい

「怖い人だっているからもっと気をつけて」

年下の少女に逆に注意されてしまった…
ちょっとショックを受けつつ

「君だって小さい子なのにこんな所にいて危ないんじゃ」
「平気、私強いから」

うーん

「兄さんどこ行くの?迷子?」

僕ってそんなに頼りなく見えるの?

「いやちょっと用が有って冒険者ギルドへね」
「兄さんは冒険者なの?」

意外そうな顔をしている

「いや違うよ。でもたまに手伝ったりしてるんだ」
「付いて行って良い?兄さんちょっと心配だし」

ぐっ…これでもダンジョンに出入りしているのに
街の中のお使いイベントレベルで心配されるとは…
とりあえず冒険者ギルドまで二人で向かう

更新日:2018-11-03 02:30:39

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