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小説

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第一章 二人の生活

 朝のコンビニエンスストアはとても混雑している。この店が駅から離れている場所にあっても、近くにマンモスマンションがあるおかげで通勤の時間帯はレジに長い行列が出来る。

「いらっしゃいませ、お待たせいたしました」

 カウンターに乗せられた商品のバーコードを、手際よくスキャナーで読み込んでいく。レジは二つとも稼働しているが、それでも商品棚の間にまで列が出来ていた。

 コンビニの店長である上田がもう一つのレジを担当しているが、ラッシュ時のプレッシャーにあまり慣れていないのでスピードが遅い。
 そんな一番忙しい時間帯をなんとか乗り越えて、秋人は商品棚を整頓していた。

「いやぁ、参ったね。あの時間帯はあまりレジに入らないから、焦っちゃったよ」

 在庫チェックをするためのタブレットとバーコードを手にした上田がやってくる。

「そうですよね。今日は相葉が入る予定だったのに、急に風邪で休みでしたからね」
 秋人は立ち上がって苦笑いを浮かべる。隣で商品のバーコードを読みながら、上田が重苦しいため息を吐いていた。

 年齢は五十五歳だが見た目はもう少し上に見える。それは中年独特の腹の出た体格と、寂しい頭頂部のせいかもしれない。若者文化に疎くて気が強い方ではないが、人柄はとてもいい。

 飲食業で獣人を従業員として使うのを嫌がるのが世の風潮だが、上田は秋人がそうだと分かっていても雇ってくれていた。しかも秋人はまだ小さな勇佑を抱えているので、頻繁にシフトを変更することも多い。そんな秋人を使ってくれるのも、彼の人のよさの成せる技かもしれない。

「相葉くん、少し前もこの時間帯のシフトを休んだんだよねぇ」
「そう、ですね。でもその分、俺が頑張りますから、相葉は大目に見てやって下さい」

 取り繕うような笑顔で相葉をフォローすると、それでもレジに入るこっちの身になって欲しいよ、と上田は呟いていた。
 以前、違うコンビニでバイトをしていたという相葉を、教える手間が省ける、と言って採用したのは店長自身だ。コンビニの基本的な仕事はそう変わらないので、即戦力になると思っていたらしいが、まさか休み癖があるとは誤算だったらしい。

「秋人くんはやさし過ぎるよ。そんな感じで何度もシフトを変更させられているんじゃないの?」
「ええ、まあ。でも俺が入れないときは、無理を言って相葉にお願いするときもありますから」

 回数的には秋人が代わってやったり、臨時で入ったりする方が多いのだが、その分、こちらが代わってもらう際は相葉に予定をキャンセルさせてしまうこともある。

(俺のシフトチェンジの理由は特定の人にしか言えないからなぁ)

 構わないんですよ、という意味を含んだ笑みを浮かべた秋人は、再び陳列棚の商品を整頓し始める。

「そろそろ時間じゃないの?」

 上田に言われて壁にかけてある時計へ視線を向ける。夕方のラッシュ前の今に商品の補充などをしたかったのだが、今日は昼の時間帯を過ぎても忙しくて、時計を見そびれていた。

「あっ、もうこんな時間だったんですね」

 秋人は慌てて立ち上がった。そのタイミングで入り口の入店音が聞こえた。

「おはようございます」

 夕方のシフト子が入って来て、通路の秋人と上田に挨拶をして通り過ぎていく。
 正直、これ以上は時間をオーバーの残業は出来ないので、次の人が遅刻しないで来てくれて胸を撫で下ろした。

「店長すみません。これ途中なんですが、今日は上がっていいですか?」
「いいよいいよ。勇佑くん迎えに行かないとまずいでしょ。引き継ぎだけちゃんとしていってね」

 上田がにこやかに微笑みながら、秋人の背中を押してくれた。

「すみません。じゃあお先に失礼します」

 そう言い残して足早にバックヤードへ向かった。夕方のメンバーに引き継ぎをした秋人は、その足で歩いて十分ほどのしらゆり保育園へ向かう。十六時までに勇佑を引き取りに行かなければいけないのだ。

(遅くなっちゃった。あいつ大人しく待ってるかな)

 秋が終わりに差しかかり、外気はもう冬の気配だ。そろそろ薄手のジャンパーでは少し寒いかもしれない。勇佑の冬物を新しく買わなくてはだめかな、と思いながら、保育園までの道のりを走る。

 姉が亡くなってから、秋人は勇佑と二人で生活をしていた。成り行きでこうなったとはいえ、今の生活はかなり厳しい。
 晴佳の忘れ形見である勇佑を、父と兄……時信家一族が正式な血統として受け入れなかった。それどころか、子供の存在をなかったことにしようとして、専門の孤児院へ放り込もうとしたのだ。

更新日:2018-08-16 13:15:27