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小説

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第一章 不審な出来事

「で、話っていうのはそれなのか?」

 夕食時を過ぎたファミレスで、桐野真純は松田悠宇と向かい合って座り、そんな質問を投げかけられていた。
 最近、自分の身の回りで不審なことが続くようになった。仕事の帰りに誰かにつけられているような気配や、視線を感じるのだ。それだけなら気のせいだと思えるが、今度は自宅アパートの窓ガラスが割られた。飛び込んできたのは直径五センチほどの石で、初めは車のタイヤが弾いたのかと思った。だが桐野が住んでいるのは二階だし、さすがにそういうことが続くと不安になった。

 そこで大学の先輩である松田に相談しようと思い、今に至る。松田とはよく夕食を一緒に行くような間柄で、お互いに社会人になってもこうして交流を持っている。

 松田はプログラマーというインドアな仕事をしているが、常にオシャレには気を遣っている。ストレートの黒髪は毛先を適度に遊ばせ、洋服もセンスがいい。顔もスタイルも中々のもので、女受けいいんだぜ、とそんな自慢話をいつも聞かされる。

 仕事がないときは、どこかの女性の家に入り浸るのを桐野は知っていた。もちろん彼女ではない人の家だ。その辺がだらしないのはちょっといただけない。オフまでインドアなのかと呆れたが。
 それなのに災難に見舞われるのが真面目にやっている桐野なのだから、神様の悪戯にも程がある。

「……はい。あまりにもそういうことが続くので、どうしたものかと」
「ストーカー……だろうな」
「ストーカー? 俺、男ですけど」
「今は男も女も関係ねえよ」
「そういうものですか……」

 はあ、とため息を吐いて、目の前のコーヒーカップを手に取る。人から恨みを買うようなことをしただろうかと、不安な気持ちが止めどなくあふれた。

 桐野の仕事はグリーンコーディネーターだ。横文字で言えば格好いいが、店舗や商業施設、またはオフィスなどに観葉植物を設置し快適な雰囲気を演出するのが仕事だ。

 最近はオフィス関係の仕事が中心になっていて、配送・設置・手入れ・交換なども行うため、ほとんど毎日が外回りである。もちろんトラックからの積み下ろしもするので、大型の観葉植物を扱うときはそれなりの力が必要だ。

 人と接することが多い桐野が誰かに恨まれているとしたら、社内の他は契約しているオフィスや商業施設で接する誰かだろう。友人の少ない桐野にはそのくらいしか思い当たる節はない。そう考えると桐野は申し訳なさでいっぱいになった。

「そんな顔をするなよ。別にお前が悪いわけじゃないだろ?」

「でも、相手が俺にそこまでするってことは、逆に言えば俺が知らず知らずのうちに嫌がることをしたって……そういうことじゃないかな、と思うんですが」
「いやいや、そうとは限らないだろ? お前の仕事、特に人から嫌がられるような職種じゃないだろうが」
「そうですけど。でも無意識にってことも、あるんじゃ……」
「桐野は鈍そうだからな」

 松田が冗談半分にそう言う。しかしすぐに真面目な顔になって、逆恨みだな、と彼は呟いた。

「そういえば、この間は出先で車がパンクしたんです。急いで回る場所があったので、台車で会社の人に来てもらって積み替えて行ったんですよ。でもそのあとロードサービスの人から、タイヤが刃物で切られてますよって言われたんですよね」
「それもストーカーって、ことか? 通り魔的な感じじゃなく?」
「これで二度目なんです……」

 桐野の言葉に松田が大きくため息を吐いた。深刻だな、とひとこと呟き腕を組み、背もたれに体重をかける。

「警察に行った方がいいでしょうか」
「被害届は出しておいた方が後々いいかもな。ストーカーの件は危害を加えられたわけじゃないし、厳重警戒だけで終わる可能性があるな」
「被害届、ですか。大事にしたくないし、会社にも迷惑をかけたくないですが」
「そんなこと言ってる場合じゃないと思うが?」

 確かにこれ以上、同じようなことが続けば仕事に支障が出てくる。どうにも解決策が見つからずに桐野は項垂れた。
 元々、人から恨みを買うようなキツイ性格ではないし、ここ最近は恋愛にも無縁なので色恋沙汰も考えられない。会社と家の往復が桐野のルーチンワークだ。

(それなのに、どうしてこうなってるんだろう)

更新日:2018-08-16 12:53:19