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小説

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猫系社長と犬系男子の愛は、淫らで甘美

季節は春。

 安藤夏都は夜の商店街を、ガックリと肩を落として歩いていた。

 今どき珍しく活気のある商店街には、夕食の買い物に来ている主婦の姿が目に付く。もう見慣れた光景だ。

 夏都がこの街で生活を始めたのは二カ月ほど前になる。今までは実家暮らしで、職場まで片道二時間かけて通勤していた。だがこの街へ引っ越して来てからは片道三十分というお手軽さに変わった。

 夏都の姉、雪子の夫が転勤になり、彼女は一緒について行くことになった。それが長期の転勤で海外という事情もあり、買ったばかりのマンションをどうするか決めかねているみたいよ、と母から聞かされた。通勤が楽になるから私が住む! と夏都が手を上げ、管理を含めて住むことで問題は解決した。

 高層マンションの二十階には六軒分の住居エリアがあり、姉夫婦の住居は角部屋に当たる。ちょうど隣は空室になっていて静かだから、と姉に教えられた。

 雪子の夫は外資系の会社で仕事をしていて、かなりの高給取りだ。なので間取りも広くかなり贅沢な作りになっている。女性が一人で暮らすには少し寂しいけれど。

 部屋にある家具やインテリアなどもセンスがよくて、どれもこれも高そうなものばかりだ。必要な物以外はほとんど置いて行くというから、夏都も引っ越しの荷物は最低限のものだけで済んだ。

『管理と合わせて住んでもらうけど、私との約束は守ってよ?』

 姉にそう念を押された。

 そしてマンションに住むには三つ条件があるから、と言い出したのだ。

 一つ、動物を飼わない。
 一つ、男を部屋に連れ込まない。
 一つ、母親の提示したお見合いには、最低一回は応じなさい。

 そんな条件だった。一つ目と二つ目は分かるにしても、三つ目はなんとなく母親の思惑が見えすぎていて遠い目になる。とはいえ、夏都も今年で二十九歳だ。彼氏なしの状態では、母親が心配するのも分からなくはない。

(この条件をOKしてから、お母さんノリノリだもんなぁ)

 職場結婚はどうなの? と聞かれたこともあった。しかし夏都が勤めるのは乳幼児向けマタニティやベビー用品を多く取り扱う会社の経理で、販売店舗は日本全国どこにでもあるという大手の会社だが、あいにく店長と副店長以外は全て女性だ。唯一男性である二人も、もういい歳で夏都の恋愛対象にはなり得ない。

 それを母が知ってからというもの、どこでお見合いの話をもらってくるのか、数カ月おきにお見合い写真を見せられているのだ。

 夏都が肩を落としている理由は、三つ目の任務を終えて帰っているところだったからである。最低一回は応じる、という条件なのに、今回のお見合いでもう三回目だ。なにかというと見合い写真を送りつけてくる母親に押し切られての結果である。うんざりしながら、今回で最後だから、と強く言い含めたうえで出向いたのだった。

(冗談を笑い飛ばせない自分が嫌になる)

 心の中でもう何度も同じ言葉を呪詛のように吐いた夏都は、重く長いため息をつく。

 今日のお見合い相手は、写真の段階で夏都の好感度を今までで一番上げた男性だった。

 モデルのようなスタイルのよさは目を惹いたし、知的な印象は好感が持てた。意思の強そうな瞳が夏都を惹きつけ、写真の中から吸い込むような目で色っぽくこちらを見つめていた。申し分のないほどのいい男性だと思ったのだ。

 それに経歴も文句の付けようがなかった。インテリアデザインの会社を経営という肩書きに思わず姉夫婦の姿が頭に過ぎり、玉の輿にありつけるのか、なんて下世話なことまで考えた。

 昔のお見合いといえば、家同士の繋がり、という考え方で、付添人などは家族や親類などが付いていくのが普通だった。しかし最近はその風潮もなくなりつつある。結局は当人同士の気持ちが重要だからと、二人だけで会って話すスタイルだ。

 もちろん夏都の場合もそうだった。外で待ち合わせをして、そのまま静かな場所へ移動してゆっくりと話をしましょう、という流れ。

 約束の場所へかなり早く到着した夏都は、ドキドキする気持ちを抑えながら待っていた。そこへ夏都の姿を見つけた相手が、人混みを上手く避けながら少し離れた場所から走ってくるのが見えた。まだ指定の時間ではないのに、待たせていると知って駆けてくる様子に、胸がきゅんときめいた。そして彼の株は夏都の中でグンと上がったのだ。

『すみません! 待たせてしまいましたか?』

 長那昌也がそう言ってさわやかな笑顔を見せた。想像していたより背は高く体格は大きい。髪は少し癖毛で、やわらかそうな落ち着いた色のブラウンだ。写真の印象よりも数倍、数十倍よくて、このお見合いが上手く行けばいいのに、と夏都は本心で思った。直感で「これは今までと違う」とそう感じたのは初めてだったのだ。

更新日:2018-08-16 12:20:05