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8月8日 双生児

 こんばんは。昨日は正体のわからない話だったので、今日は正体がわかる話にします。
 ・・・そういえば、あなたにはごきょうだいがいらっしゃいますか?私にはいません。幼い頃はそれに近いものがおりましたが、もういません。死んでしま・・・死んだ、というんですかね?まあ、焼けてしまいました。
 あの子のことはいいとして。近いうちに話します。今日のお話はきょうだいの中でも少し特殊な、双子の兄弟のお話です。
 さて、ある青年には双子の兄弟がおりました。もとい、いるはずでした。まだ胎児の頃、双子の片方だけが亡くなってしまったのです。青年はそのことを、高校生になって知りました。
 時は遡って、彼が中学生の頃の話です。彼は一人でふらふらと散歩をするのが趣味で、その日も川辺を目的もなく歩いておりました。風の強い日で、突風にちょっと足を止め、一歩後ずさったのですが、どうも足を置いた場所が悪かったようで。その瞬間に、ぐらりとよろめいて川へ落ちてしまったのです。悪いことにあまり人気のない場所で、彼はぐんぐん流され、ついには意識を失いました。
 次に気がつくと、そこは何かの作業場らしいところでした。青年・・・当時は少年ですが、まあともかく。彼は大きな作業台に仰向けに寝かされており、起き上がると明るい声に、もう大丈夫だね、と話しかけられました。
 声の主は彼と同じ年頃の、ニコニコとした少年。周りに置いてある道具・・・縫い物に使うらしい道具から見るに、この少年は仕立て屋だと思われました。
 青年は何か聞こうとしたのですが、その前に、いってらっしゃいと声をかけて、仕立て屋が一度手を叩きました。その音に青年が何かはっとした気分になると、一瞬で周りの景色はすっかり変わり、仕立て屋の姿も消えました。おそらく、夢から覚めるような心地でしょう。

更新日:2018-08-08 20:00:05

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