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現在 含意

それから4日ほど経った。
私はお礼のような文句を、いや文句のようなお礼を言おうと侑斗を行きつけのカフェに呼び出した。
メールでは私の混沌とした気持ちは伝わらない。
そう言えばこの店に昼来るのは珍しい。
夜の照明と昼間の照明は同じものでも違う色を映す。
カントリー風の店内には夜のメンバーが撮影した星の写真がいくつも飾られている。
良く解らない赤っぽい染みの写真とか、アンドロメダ銀河は分かる。
これは彰くんの作品だな。
それから風景みたいな星の写真、星景写真とかいうのか。
この前見た実際の星空に比べてわざとらしい。
後野鳥の写真とかも多い。あの青い鳥はカワセミだろうか
。星の写真は浮世離れしていて現実感がないが、鳥たちの愛らしさや美しさは素直に感性に響く。
あっちはツグミかな、次は鳥の話を書こう。少なくとも寒いから止めようとかにはならないだろう。
鳥の話か。結構下調べ大変そうだな。
メルヘンチックにまとめるか。構想を始めたところで、まるで風のようにすっと入口を通り抜けてタイミング悪く奴が来た。
「あれ早いね。確か13時30分にここに来るようなメールを見た気がする。15分くらい早く着きすぎたと思うんだけど」
侑斗は紺色のハイネックのシャツに大きめの森林色の緑のセーター、更に真っ青なフリースを着込んでほかの客たちから引かれている。
もう春も近い。今日の最高気温は16度まで上がると気象予報士が言ってた。
どこまで寒がりなんだよ。
「私はここで1時間前から仕事をしながらあんたを待ってたんだよ。あんたは早く来すぎて私の邪魔をしてんの。とにかくその暑っ苦しいものを脱いでよ。」
侑斗に私の憎体が伝わっていないことは分かった。
「俺は別に暑くないけど。脱がなきゃ駄目?」
「私が恥ずかしいから駄目」
面倒くさそうにフリースを脱ぐ侑斗。
正直そのセーターも脱いで欲しい。私が暑い。見ているだけで。
「それであのちっちゃい丘行ったんでしょ?ロケーション最高だったでしょ」
どうも私は感謝の意を求められているらしい。この不景気な顔が分からないか。
「ははは。そうだね、もうちょっと道が歩きやすくて、後ろから変なものが付いてきてるような気がしなくて、気温が10度ほど高かったらそのロケーションとやらも最高だったかもね」
侑斗は肩を竦める。
私の怨声にようやく気づいたか。さあどうしてくれようか。
「寒いのは仕方ないでしょ。まだ春先なんだから。だから素人の星見は大変なんですよ。寒さも星見の一部って分かってないから。後は自然と向かう心構えの問題だと思う」
昼も夜も、屋外も屋内も同じような格好をしている、あんたにだけは言われたくないよ。
「あの丘は一人星見にはお勧めなんですよ。他にもいっぱい丘はあるけどみんな天辺にお墓とか地蔵とかあって気持ち悪いでしょ。それに女の人一人での星見はあんまりお勧めしないですよ。松原さんとか牟礼さんと一緒に行ったらどうですか?
女子一人だと嫌なら澪さんも誘って。ああ金曜倶楽部は明日ですね。皆さんに聞いてみたらどうです?」
金曜倶楽部とはこのカフェで毎週金曜の夜、特に約束もないのにいつの間にかに集まって四方山話に耽る集まりの事だ。
そう言えば私は最近行っていない。
「そう言えばさあ・・・」
私は急に思いついて口に出す。「あんた澪さんと会ってる?金曜倶楽部以外で」
私の質問に侑斗はすげない態度で答える。
「え、何でですか?会うわけ無いでしょ」
「長い付き合いだよね。私と同じくらい」
そうだ。私たち3人が始めてあったのは4年前。
もっとも3人ともバラバラに遭ってるんだけど。
その後3人で顔を合わせたこともあった。
「私とこうやって会ったりしてるんだから、澪さんともたまに会ったりしてるのかなあって」
「澪さんと二人で会うとか考えたこともないし?あの人は亜希さんのようには話せないし。第一修一の姉貴じゃないですか」
そうだ。澪さんは修一くんの姉だった。そして澪さんは口が重い。
それでも私や侑斗より金曜倶楽部に参加してる回数ははるかに多いと聞いている。
本人から。



更新日:2018-08-04 07:02:17

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