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226・   大人だけ口が紫桜の実(2005)〜

挿絵 492*369

231・   高山に雑草はない雪解け道
         (こうざんに ざっそうはない ゆきどけみち)あ

 立山連峰の喉仏にやっとのことで辿り着いた。カルデラ湖である「みくりや池」を隠している雪原から足元に冷気が吹き上がってくる。1時間半の高原散歩。雪解け水が細道を濡らしている。その両側には背の低いこじんまりした草が縮こまっている。大部分が見えないくらいの小さな花がついている。
 最近の若い女性は小顔に憧れるらしいが、これは高山植物症候群と言える。69歳の男から見ると、小顔の娘はなにかが不足しているアンバランスな体型に見えてしまう。小顔が似合うのは高原植物だけである。

 (2005・7・8、富山県立山市黒部室堂)



232・   かしましや大阪女 夏二つ
         (かしましや おおさかおんな なつふたつ)
 
 大阪駅ビルのホテルレストランで真夏の大阪にいることを実感させられた。枕流の隣のテーブルに座った女性二人は、席に着くや猛烈に喋り出した。四人分の迫力である。東京でもよく喋る女には出くわすが、迫力と煩さが桁違いなのである。これは非難というのではなく、驚きの表現なのである。その口から、ときにキューピットなる言葉が出るから迫力と煩さが桁違いにすごいと感じるのである。
 「かしましや女の口からクユーピット」

 (2005・7・25、JR大阪駅)



233・   滑走路を北へ伸ばせ 北側大臣
         (かっそうろを きたへのばせ きたがわだいじん)

 いつかはこのギャグが報道番組に登場する時が来ると待ち構えていた。成田空港の予定地内に残っていた不在地主たちが所有する小間切れ土地の収容を阻止するために不在地主は住所をわからなくしていた。成田闘争が発生した原因はあるが、あれから40年は経過していて、和解の時期に来ていた。
 そのような中、担当の北側大臣は第二滑走路を大型ジェット機が離発着できるようにしようとした。そこで発する言葉は「北側に伸ばせ」となるかと思ったが、さすがにそうは言わなかった。

 日本国憲法には公共の福祉という条項がないから、ここまで解決が長引いた。北側大臣が、北へ伸ばせと指示を出した時に、枕流は「きた、きた」と呟いてしまった。

 (2005・8・4、報道番組)



234・   石壁に汗を吸わせに美術館
         (いしかべに あせをすわせに びじゅつかん)

 さいたま市の県立美術館を避暑地と考えている人が意外に多いことがわかった。館内の分厚い石壁に背中を押し当てて深呼吸すると涼しい気分になる。持参した本は膝の上で気持ちよさそうに寝ていた。しかし、枕流のこの句には面白みが全くないので、汗が出そうだ。

 漱石の生まれた家には大谷石で作った蔵があって、漱石はこの中にはいっていると汗が引っ込んだようだ。長じてから大英博物館の石のフロアに入ると、漱石は大英帝国の略奪のすごさが堂々と展示されていて冷や汗が出たようだ。
 
 (2005・8・5、さいたま市北浦和公園内美術館)



235・   解散の時だけネクタイホットビズ
         (かいさんの ときだけねくたい ほっとびず)

 衆議院の解散が決まった。参議院で小泉内閣の郵政法案が否決されたので、首相は関係のない衆議院の解散を発表した。テレビで見るこの時の首相の服装は、これまでのクールビズではなく、ネクタイ背広姿のホットビズスタイルであった。
 これまでのクールビズでの国会の議論はそれほどまでに軽いものだったのか。

 (2005・8・9、さいたま市)


更新日:2018-08-28 11:11:37

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