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挿絵 800*502

221・   残雪を溶かす山芽のニョッキ熱
         (ざんせつを とかすやまめの にょっきねつ)
 
 埼玉から新潟県へ山菜採りに出かけたが、宿の近くの山には山菜が見当たらない。季節が遅れ気味であるのに加えて、山に入る人が多すぎるからであると考えた。だが周囲の山をぐるっと見ながら歩いたので、木の芽の上に張った薄紫のベールの存在に気がついた。
 そしてその新芽の発する熱が雪を溶かすのだと実感できた。山道の側溝を雪水が勢いよく流れ落ちている。「U字溝に踊る雪水 ヒカリ田へ」

 (2005・5・1、新潟県南魚沼市)



222・   目に染みる醤油で目覚めビジネス街
         (めにしみる しょうゆでめざめ びじねすがい)

 駅からどっと吐き出された通勤の会社員たちと共に歩き出した。天気がいいためか蕎麦屋の戸は大きく開けられている。蕎麦つゆを作る醤油の火入れが行われているのがわかる。この戸から流れ出る濃い醤油の味が、道行く会社員に目を覚ませと呼びかける。ゴールデンウィークが明けても目が開かない社員に対して、そばを食べに来いと呼びかけている。

 (2005・5・9、東京都千代田区 JR水道橋駅前)



223・   こんなにも田植えに来るとは 雪解け村
         (こんなにも たうえにくるとは ゆきどけむら)

 村長が「雪が溶けてからは今日初めて晴れた」と田植えツアーの参加者を笑わせた。田植え体験ツアーに参加した人の多さに主催者側は驚いている。村長は参加者に約束した収穫米10キロの発送費が頭をよぎったに違いない。
 挨拶が終わると参加者たちは肥料袋を半分に切って作った苗袋を腰に縛り付けて田んぼに向かった。雪解け水が張られた田んぼは太陽が照っていてもまだ冷え冷えとしていた。名字に石田があるが、石田とは文字通り石が田んぼの中にゴロゴロしている山間の田んぼのことだ。知ってはいたが足の裏が痛いことで石田の意味を実感できた。開墾に苦労した人たちの名前なのだ。「苗植える石田冷たく会津郷」

 翌朝、田植えを指導した人と道で出会った。昨日ツアー参加者が植えた苗を手直しに行くのだという。村人は正直である。

 (2005・5・21、福島県南会津市南郷)



224・   蕗の薹とうがたってもフキノトウ
         (ふきのとう とうがたっても フキノトウ)

 薹が立つとは、蕗の蕾が伸びて硬くなり、食べ頃を過ぎていることを意味する。人に対しても使い、女が年頃をすぎていること、そして仕事ができる年頃をすぎていることを意味する。
 蕗の薹が雪の消えたスキー場にわずかに残っていた。観光客に大方採取された残りの蕗の薹が茎を伸ばしていた。花が開いてしまっている茎の先端を摘んだ「フキノトウ」をプラスチックの袋に入れ、氷を入れて冷やした。
 この作業を終えてから4時間かけて我が家にたどり着いた。この夜の野菜天ぷらの主役はフキノトウであった。蕗の薹と同じ蕗の香りがテーブルを包んだ。

 (2005・5・22、福島県南会津市南郷)



225・   バスに薔薇 浮かべて浮かれああ浮世
         (ばすにばら うかべてうかれ ああうきよ)

 女房はベランダにあるバラの花から散り始めた花びらを20枚ほど集めて来て、風呂に浮かべた。小さな水面は緑の菖蒲ではない真紅の花びらで埋まった。まさに米国映画の「アメリカンビューティ」の有名なバスシーンの出現である。
 ハリウッド映画では若い娘がバラの風呂に浸かっていたが、浦和の風呂では60歳に近い男がバラの中にいた。

 本当なら風呂(バス)にはハスの花が似合いそうだが、米国式もいいものだ。こんな俳句ができたのであるから。

 (2005・6・7、さいたま市)

 

 
 

更新日:2018-08-26 10:11:12

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