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小説

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1・   スコールを身ふるわせて口に受く椰子 (1991)〜

挿絵 800*612

1・   スコールを身ふるわせて口に受く椰子
       (・・・・・みふるわせて くちにうくやし)
     
 赤道が頭上の近くを通っていそうなマレーシアのK.L(クアラ・ルンプール)郊外。思い切り暑い首都には、夕方近くになると日中に蒸発した大地の水を戻すように強烈なスコールが毎日降り注ぐ。砂崎枕流同様に喉が渇いている椰子群は、大きく口を開ける。そして大きな手を広げて揺れながら全身で喜びを表す。
 さあ、わたしにはビールだ。

 (1991・6・14)



2・   朝風を受けて見晴らす熱世界 
       (あさかぜを うけてみははらす ねつせかい)
     
 寝床でうっすらかいた汗をシャワーで洗い流して、高台に建つコンドミニアムの14階のベランダに立つ。朝焼けのトースト状態の住宅街が眼下に広がって見える。赤い街はすでにエンジン全開である。熱世界は前夜K.Lで仕事仲間と飲んだビールを消したからと私に告げて、エンジンのスタートを促す。

  (1991・6・16)



3・   コーランと鳥どりの音が動かすK.Lの陽
       (・・・・・とりどりのおとが うごかすけーえるのひ)

 毎日、暗い朝にやってくる低く伸びるモーニングコール。住宅地のスピーカーから流れる低くて重いコーランの音。毎日聞いて慣れているはずの犬たちが一斉に吠える。おびえているのか共感しているのか、どっちだろう。
 街中から湧き上がる犬の声が無数の鳥たちを叩き起こす。熱帯の木々にいる鳥が鳴き出して騒然となった街の音が隠れ涼んでいた太陽を大地から引き上げる。

 (1991・6・17)



4・   準備でき一人アパート スカボロフェア
       (じゅんびでき ひとり・・・・・・・・・・・・)

 マレーシアから帰国して2年後、開発の仕事から生産ラインの品質管理に仕事が変わり、家族をさいたま市において離れた川崎の地での単身生活となった。6畳一間にスカボロフェアの曲が流れると小さなアパートの部屋は高級マンションの部屋に代わった。しかし、心はボロボロ状態のまま。

 DIYの店で集成材の大きな板を買って、小さな机の上に乗せると、狭い部屋に巨大空母が出現した。エンジン代わりに載せたジョングリシャムの本が空母の名になった。「グリシャム号」

 (1994・6・17、川崎市幸区)



5・   人の汗集めて散水冷房車両
       (ひとのあせ あつめてさんすい れいぼうしゃりょう)
 
 JR線の駅のホームでの出来事であった。線路を越えた向こう側のホームに入線してきた車両を見ていた。隣のホームに冷房車両が静かに止まった。その車両の端から水が滝のように落ちている。線路の石の上ではなく、蜃気楼が立ちそうなホームに撒いて欲しいものだ。
 やっと自分の立つホームにも電車がやってきた。隣のホームの電車滝はあっという間に蒸発して消えていた。
 
 (1994・8・8、品川駅)

更新日:2018-08-08 11:46:31