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透明化能力を使ってみる

◆透明化能力を使ってみる

 僕の能力は稀有なものなのか?
 おそらく、そうだと思う。こんな話、今まで聞いたことが無い。
 そして、僕と同じ透明化になることのできる人間が他にもいるのだろうか?
 それは、わからない・・
 誰かに聞くわけにもいかないし、もしそんな人間がいたとしても隠すに決まっている。
 
 そして、この病気は治るのか?
 これもわからない。まだ数日しか経っていない。

 もし治って、普通の人間に戻ってしまうのなら、
 その前に、治る前に、この不思議な能力、透明化を何かに使ってみるのもありだ。

 どうせなら、人のためになることはないのか?
 
 と・・その前に、僕は健全な高校男子だ。
 銭湯・・女子更衣室・・
 そこまで考えて・・
 いやいや、ダメだ! それはダメだ! と僕は首を振った。
 どこに僕の母や、あの文学少女っぽい速水沙織のような僕が見える人間がいるとも限らない。通報されるぞ。
 何て不便な能力だ!

 そう思いながら僕は既に透明化を試みていた。心と体は一体ではないらしい。 
 古典の次は父の蔵書の百科事典を読み始めた。眠気と戦うことが目的、透明化が目的、そして、眠気の度合いが深いほど、透明化の時間は長くなる・・
 そんな僕の仮説の試みだ。
 
 壁掛け時計を見る。時間は夕方の4時。
 両手を見る。首から下を見る。透明化すると、眼鏡もかけているのかどうかわからなくなる。下半身を見ると頭がふらふらしてくる。
 パンツも見えないし、当然、手が見えないから、トイレに行くことはできないな。
 なにせ体全体が見えないのだから・・
 そう思うと、怖くなるが、そんな時は目を瞑る。
 体全体に力を込める・・すると、血が流れているのが実感できる。
僕は生きている。 

 あれ? 僕は完全に透明化している・・そう思っていたが、よく見ると、体が見える。透明なのに見える。どういうことだ?
体の四肢がゆらゆらと揺れる半透明のゼリー状のように見え、それが僕の透明化した体だと認識できる。
神経? あるいは脳が体を意識して、目に体の構造を伝えているのだろうか。
目に見えないものを脳が補っている。そんな感覚だ。
手足の動きが分かるし、物も掴めるぞ!
助かる。これだとトイレに行ける!
いやいや、それだけではない。他に透明中にもいろんなことができる。

階下に降りて、玄関の鏡を見ると、完全透明だ。
手足、胴体は何となく感じるし、目で見ると透明なのにゼリーのように見える。
靴もちゃんと履けた。すごい! 至極当たり前のことに感動を覚える。
体が透明になったことを確認すると、僕はこっそりと外に出た。

行先は決まっている・・
水沢純子の家だ。
心臓の鼓動が何割か増す。

更新日:2018-06-22 16:46:42

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