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埋蔵金

 
 ライバル関係にある組織に属する人間が揉み手をしながらやって来た時は、警戒を怠ってはいけない。それは十中八九、ありがたくない提案だからだ。

 特にこの陰陽寮の次席法技官・希沙良がにこやかに封魔方の庁舎に現れた場合は、やっかいな事案を押し付けようとしていると考えるべきだった。


「いやだなあ八柱方技官。まあ、そう警戒しないでくださいよ」

 希沙良は俺の対面に座り、十朱(とあけ)補佐官が出したお茶をフーフーと何度も吹いてから、うまそうに飲み干した。

「猫舌なんですね? これは意外だ」

 十朱補佐官がからかった。

 希沙良は十朱にからかわれて少しショックを受けていたようだが、すぐにいつもの食えない笑顔に戻り、およそこの部署にはふさわしくない話を始めた。

「実は八柱方技官に埋蔵金を探してもらいたいのです」


 現在は内閣官房庁に所属する陰陽寮と封魔方は平安時代から存在する秘密組織だ。警察や軍隊が人間を相手にした治安を担当するのに対し、我々は国内に跋扈(ばっこ)する魑魅魍魎(ちみもうりょう)を退治する。目には見えぬものが相手である為、予算が付きにくく、内閣官房機密費によって活動している。そんな組織の人間が呑気に埋蔵金探しなど、できようはずもなかった。


「何の冗談だ?」

 俺は希沙良が広げた古地図をチラ見しながらそう言った。

「いたって真面目な話ですよ。実は政府が国際公約した景気浮揚策が未だ効果を発揮しないのです」

 希沙良はわざとらしくため息をついて首を振った。

更新日:2018-06-18 10:45:13

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