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木漏れ日家族

 お父様はわたしのことを、可愛い、愛していると、おっしゃいますが、わたしはそうでもございません。
 お父様がお出かけになる際も、
「行ってらっしゃいませ」
 と笑顔で見送りはいたします。
 ですが、その心中は、舌を出しております。
 はっきり申し上げます。
 わたしはお父様のことが、あまり好きではございません。お父様の前では可愛い娘を演じておりますし、それでよろしいとも思っております。なぜならそれが一応、家族の在り方だと思われるからです。
 わたしには兄と姉、そして妹がおります。それぞれが他人のように接しております。お食事はお母さまを交えて頂きますが、それ以外は兄弟間の交流はいたしません。ですが会話らしきものはいたします。
 兄と姉はとてもご優秀でございまして、ふたりとも海外に赴任をしております。毎年、夏と冬の年二回ほど、帰省してまいります。その際、おみあげなども一切ございません。
 特に兄は他人に無関心な性格でございまして、自分のことしか考えない、悪魔のようなお人でございます。わたしに対しても、物のように扱いますし、常に指示語で話されます。
 猫を虐待して、バラバラに解体した死体を、わたしにみせにきたこともございます。わたしはあの時に、この方とは家族としてお付き合いさせて頂くのは難しいと判断いたしました。
 学生の頃は自室に閉じこもり、なにやらやっておりましたが、わたしは気にも留めずにやりすごしておりました。お父様が部屋をお伺いされた際も、部屋の中には一切入れずに、
「俺に命令をするな」
 と、すこぶる癇癪をおこし、蛮声で罵っておられました。
 身震いがしました。
 わたしは兄の形相をみた時に、それは無表情の鋭い目つきで、冷酷な感じをみてとれました。いつの日か、人を殺めるのではないかと常に、心の中で思っておりました。
 次に姉でございますが、この方は極度の潔癖症でございまして、髪の毛一本部屋におちているだけで、
「なんで髪の毛がおちているのよ! 」
 と、えらく騒ぎ立てていたのを覚えております。そして世の中を舐めきった言動ばかりをとります。常に自分が一番でないと気が済まない。物の試しに。わたしは姉を出し抜いて、先にお風呂を頂いた時のことでございます。
 すると、いきなり姉が浴場にあらわれて、
「なんでてめぇが先に風呂に入ってんだよ! 」
 たいそうお怒りになり、怒鳴り声をあげながらわたしの腕を強く掴み、浴槽の外へと無理矢理にださせました。そしてわたしは一度ばかし、背中を蹴られました。
「とっととここから出ていけ! 」
 わたしは恐怖のあまり、泣きながら自室へと、裸のまま急いで戻りました。
 そんな兄と姉でございます。
 妹は無口で、いつもボーとしております。学校にもあまり通っておらないらしく、お父さまは激怒なされておりましたが、お母様は、
「あの子の好きなようにさせてあげましょう」
 と温和な表情でお父さまに申しますと、お父さまは苦虫を噛み潰したような顔をし、
「わかった。俺はあいつの面倒はみない。いいな」
 とお母様に強く言いますと、お母様は笑顔で一度頷いておられました。
 お父さまはお母様には頭が上がりません。家族の中で一番お母様のことを愛されております。ちなみにわたしは二番目だという話しを、お母様が言っておられました。
 ある日のことです。
 お母さまがわたしの部屋にお見えになりこうおっしゃいました。
「リビングへ」
 わたしはお母さまの指示通り、お母さまと一緒にリビングへと向かいます。わたしとお母様の足の数は合計で四本ございます。それは馬の四つ足のようでございます。わたしは常にお母さまの一完歩後ろを歩きます。これはお母さまに対しての、わたしなりの敬意のあかしでございます。長い廊下を歩き、螺旋状の階段をおり、リビングへと歩みを進めます。階段をおりると、リビングへと向かう長い廊下を進みます。時間にして、六十秒くらいでしょうか。
 リビングに到着すると、すでに兄、姉、妹がおり、無言で挨拶をいたしますと、三人とも無言で頭だけを下げます。
 なんだかソファーの上に、お父さまらしき人物が横たわっております。それはどんどん近づき、わたしが指呼する位置まで到達いたしますと、お父さまは苦悶の表情を浮かべて、息絶えておりました。
 あきらかに、何かしらの毒物か劇物でも飲まされたような感じが、みてとれました。わたしは左右を見渡しますと、誰一人涙ひとつながしておりません。わたしも涙なんて出ていません。むしろ含み笑いを隠すのに大変でした。
 わたしは誰が、お父さまを殺めたのかはわかりましたが、あえて何も言いませんでした。
 

更新日:2019-01-27 16:40:09

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