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助けを呼んでいたのは
"五つめの国"に足を踏み込んだ時から、変な感じがしていた。頭にチラつくぼやけた景色のせいで何度足を踏み外しそうになったことか。
ぼやけた景色には見覚えがあった。でも、なんだかはっきりとは思い出せない感じ。重要な何かを忘れている気がするんだけど、それがなんだか分からない。
もやもやしながら目的の場所にたどり着くと、哀しみの王は言った。
「……倒しに来たんだね」どこか切なそうな響きだった。
「哀しみを……つぶしに来たんだね、クロノア」
瞬間、彼の姿がなにかとかぶった気がした。
「なぜなんです。〈五つ目の鐘〉を出現させて、世界に何をしようといてるんです!」
ロロの声に引き戻されて、でも対峙している相手の姿が頭に引っかかる。
「出現した? ちがうよ。〈五つめの鐘〉は最初からそこにあったんだ。ずっとそこにあったのに、君たちは見ようとしなかったんだ」
哀しみの王はクロノアをちらりと見ると、そのまま視線をはずしてうつむいて続けた。
「人は哀しみにであった時、それを忘れてしまおうとする…。まるで、なにもなかったかのように……」
その言葉に、クロノアはチクリと胸が痛むのを感じた。とたん、「あの記憶」がよみがえってきた。
「哀しみを忘れようと望むなら…そんな世界なんか、こわしてしまえばいい…。哀しみで世界をおおいつくしてしまえばいい…。そのために…夢見る君をここまで連れてきたんだ…!」
記憶とともに哀しみの王の言葉ががんと頭に突き刺さる。僕は……。
「世界の責任をとるんだ、クロノアァァァァ!!」
僕には友だちがいた。一緒に遊んで一緒に笑って、いつでも一緒だった大切な、一番の友だちだった。
その友達を失った。裏切りという大きなショックとともに。
君は本当はこの世界には存在しないんだ! この世界は君にとっての現実じゃないんだよ!
悲痛な声で。出会ったことも、一緒に遊んだりしたことも、全部その友だちに創られたいつわりの記憶。それを信じこんでいたんだと。
異の夢。夢を渡り歩くチカラ。
それをどう思うよりも先に、僕は彼に利用されていたんだとショックを受け、今までの友情もいつわりのものだったのかなと考えて哀しくなった。怒りもちょっと感じたけど、それよりもずっとずっと、哀しかった。
それ以来、僕は彼のことを忘れるようにした。がむしゃらにヒーローになることを夢見た。ヒーローになるために風邪のリングは使い続けたけど、いつの間にか彼のことは忘れていった。ただただ、ヒーローになっていいことをすることに必死になった。
「そんなに哀しみを消したいのか……。そんなに哀しみを認めないのか…。僕はこの世界にいちゃいけないのか!!」
哀しみの王とぴたりと目が合って、愕然とした。
思い出せないけど、ヒーローになるって夢は叶ったんだと思う。真っ暗な夢の中で、すごく満たされた気分だったから。
でもそれは同時に、一番の友だちだった彼をなかったことにしたって証拠だったんだ。
どうせ夢。僕の現実じゃない。それなら彼と友だちだったのにって哀しむのは筋違いだって。でも捨てきれなくて。それで気持ちを紛らわすためにヒーローに憧れた。
「勝手なことを言うな!」
突然背後から声が上がって、はっとした。
「レオリナ!」
「自分だけが哀しいと思ってとじこもりやがって! 甘ちゃんがつけあがるな!」
「レオリナ…!」
レオリナは哀しみの王に怒号を張り上げていたが、その言葉はクロノアをも一緒に貫いていた。そして気付かされた。
これじゃあ……僕だってとんだ裏切り者じゃないか。
クロノアは目が覚めた気分で哀しみの王と対峙した。
僕は逃げてたんだ。彼との別れを。彼のしたことからも。一番の友だちとの別れを、裏切りを認めたくなかったんだ。ずっと一緒にいられると思ってたのに、もう二度と再会すらできない事実を受け入れたくなかったんだ。
きっと僕を呼んで、いつかは打ち明けなきゃいけないことも分かってたはずだ。それを覚悟して、ああなることを覚悟して僕と一緒に、ずっと笑って過ごしていた彼は一体どんな気持ちでいたんだろうか。
僕はそんなことにも目をつぶって、自分だけが哀しいと思ってなにもかもなかったことにして。
甘ちゃんは、僕だったんだ。
両手で自分を抱いて助けて助けてと呟く王。それはきっとあの時の僕であり、あの時の彼。
リングの中でロロの合図がする。このリングだって。
彼だって、哀しかったんだ。ずっと。あの日が来ることが分かっていたから。
「助けに、来たよ」
それは自分の気持ちを整理した瞬間。一番の友だちの裏切りと、別れを受け入れた瞬間。
鐘の音が世界に響いた。
ぼやけた景色には見覚えがあった。でも、なんだかはっきりとは思い出せない感じ。重要な何かを忘れている気がするんだけど、それがなんだか分からない。
もやもやしながら目的の場所にたどり着くと、哀しみの王は言った。
「……倒しに来たんだね」どこか切なそうな響きだった。
「哀しみを……つぶしに来たんだね、クロノア」
瞬間、彼の姿がなにかとかぶった気がした。
「なぜなんです。〈五つ目の鐘〉を出現させて、世界に何をしようといてるんです!」
ロロの声に引き戻されて、でも対峙している相手の姿が頭に引っかかる。
「出現した? ちがうよ。〈五つめの鐘〉は最初からそこにあったんだ。ずっとそこにあったのに、君たちは見ようとしなかったんだ」
哀しみの王はクロノアをちらりと見ると、そのまま視線をはずしてうつむいて続けた。
「人は哀しみにであった時、それを忘れてしまおうとする…。まるで、なにもなかったかのように……」
その言葉に、クロノアはチクリと胸が痛むのを感じた。とたん、「あの記憶」がよみがえってきた。
「哀しみを忘れようと望むなら…そんな世界なんか、こわしてしまえばいい…。哀しみで世界をおおいつくしてしまえばいい…。そのために…夢見る君をここまで連れてきたんだ…!」
記憶とともに哀しみの王の言葉ががんと頭に突き刺さる。僕は……。
「世界の責任をとるんだ、クロノアァァァァ!!」
僕には友だちがいた。一緒に遊んで一緒に笑って、いつでも一緒だった大切な、一番の友だちだった。
その友達を失った。裏切りという大きなショックとともに。
君は本当はこの世界には存在しないんだ! この世界は君にとっての現実じゃないんだよ!
悲痛な声で。出会ったことも、一緒に遊んだりしたことも、全部その友だちに創られたいつわりの記憶。それを信じこんでいたんだと。
異の夢。夢を渡り歩くチカラ。
それをどう思うよりも先に、僕は彼に利用されていたんだとショックを受け、今までの友情もいつわりのものだったのかなと考えて哀しくなった。怒りもちょっと感じたけど、それよりもずっとずっと、哀しかった。
それ以来、僕は彼のことを忘れるようにした。がむしゃらにヒーローになることを夢見た。ヒーローになるために風邪のリングは使い続けたけど、いつの間にか彼のことは忘れていった。ただただ、ヒーローになっていいことをすることに必死になった。
「そんなに哀しみを消したいのか……。そんなに哀しみを認めないのか…。僕はこの世界にいちゃいけないのか!!」
哀しみの王とぴたりと目が合って、愕然とした。
思い出せないけど、ヒーローになるって夢は叶ったんだと思う。真っ暗な夢の中で、すごく満たされた気分だったから。
でもそれは同時に、一番の友だちだった彼をなかったことにしたって証拠だったんだ。
どうせ夢。僕の現実じゃない。それなら彼と友だちだったのにって哀しむのは筋違いだって。でも捨てきれなくて。それで気持ちを紛らわすためにヒーローに憧れた。
「勝手なことを言うな!」
突然背後から声が上がって、はっとした。
「レオリナ!」
「自分だけが哀しいと思ってとじこもりやがって! 甘ちゃんがつけあがるな!」
「レオリナ…!」
レオリナは哀しみの王に怒号を張り上げていたが、その言葉はクロノアをも一緒に貫いていた。そして気付かされた。
これじゃあ……僕だってとんだ裏切り者じゃないか。
クロノアは目が覚めた気分で哀しみの王と対峙した。
僕は逃げてたんだ。彼との別れを。彼のしたことからも。一番の友だちとの別れを、裏切りを認めたくなかったんだ。ずっと一緒にいられると思ってたのに、もう二度と再会すらできない事実を受け入れたくなかったんだ。
きっと僕を呼んで、いつかは打ち明けなきゃいけないことも分かってたはずだ。それを覚悟して、ああなることを覚悟して僕と一緒に、ずっと笑って過ごしていた彼は一体どんな気持ちでいたんだろうか。
僕はそんなことにも目をつぶって、自分だけが哀しいと思ってなにもかもなかったことにして。
甘ちゃんは、僕だったんだ。
両手で自分を抱いて助けて助けてと呟く王。それはきっとあの時の僕であり、あの時の彼。
リングの中でロロの合図がする。このリングだって。
彼だって、哀しかったんだ。ずっと。あの日が来ることが分かっていたから。
「助けに、来たよ」
それは自分の気持ちを整理した瞬間。一番の友だちの裏切りと、別れを受け入れた瞬間。
鐘の音が世界に響いた。
更新日:2018-06-11 01:53:15