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誇り
バイクがうなる。土煙をあげて、疾走する。
前には賞金首。後ろからは数体の幻獣。意外にもバイクのスピードについてきていて離せないことに腹が立つ。
ガンツはバイクのバックミラーを見ながら、銃を構えて何発か撃つ。弾は当たらず、幻獣はまだついてくる。
「チッ…」
思わず舌打ちがもれる。前方を走る賞金首はそれを一瞥するとこっそり逃げるスピードを上げた。気付かないわけがない。ガンツは目をすがめるとバイクの速度を上げる。
荒野でありながら、障害物は驚くほど多い。
巨大な石の柱がぽつぽつと立っていて、カーチェイスならぬバイクチェイスにはイマイチ条件が悪い。さらに、地面が平坦じゃないおかげで標準を合わせるのも一苦労だ。自分も動いていれば相手も動いている。タイミングを見極めるのは難しい。
ガンツは賞金首の背中を睨みつけながら、腹立たしさと同時に父親の笑い声を思い出した。
賞金首を見据えたまま、一瞬眉をしかめて子どもの頃の出来事を思い出す。
『ハハハ! 最初から当たったら化けモンだ!!』
銃を構える姿勢を休めて、むぅと悔しそうに顔をゆがめるガンツは幼いがしかし、ようやく銃に慣れてきたところだった。父親のバッツがその大きな手でわしゃっと頭をかき回してくる。
『止まっている的を狙うのは簡単だし、慣れりゃあ何発でも当てられるようになるもんだ。だがな。賞金稼ぎの仕事として、実際にそんなじっと突っ立って撃たれる奴がいるか?』
『……いない』
『だろ? そこでな、俺は動いている的を狙う練習をしておいた方がいいと思ったわけだ』
木をうまく削って作ったフリスビーのようなものを背後から出して見せて、にやりとするバッツ。ガンツは目を丸くした。
『それを狙うの?』
『あそこにあるターゲットと同じ大きさだぞ。でも、こいつは俺が投げる。投げて、俺が撃てって言ったら飛んでるこいつに弾をお見舞いしてやるんだ。分かるか?』
頷いたものの、最初に投げられたやつは見事に外したところだ。
父親に最初から当たったら化け物だと笑い飛ばされたが、それは逆に幼いガンツの負けず嫌い魂に火をつけた。
感覚で慣れるまで頑張ってみろと言いながら次のフリスビーを空に放つ。ガンツは今までにないほど神経を研ぎ澄ませ、フリスビーの動きに感覚のすべてを集中させた。
父親が撃てと声を張ったのと、ガンツが今ならいけると引き金を引いたのは同じタイミング。フリスビーがぱこんと気持ちのいい音を立てて、割れた。
『……!』
父親が目を瞠る。
ガンツも驚いていた。当たった……、当たった!!
『父さん! 当たったよ!!』
近くにあった樽に銃を置いて、ガンツは父親の懐へ飛び込む。息子の声で我に返って、それをすんでのところで抱え上げた父親は嬉しそうに笑った。
『こりゃあたまげたな! 動く獲物を逃さないそのセンスはお前のタレントだ! こりゃあ将来腕利きの賞金稼ぎになるぞ!!』
最高の褒め言葉に、ガンツはくすぐったくなって父親に抱き着きながら笑った。
前を走る賞金首のバイクがかすかに左右に揺れ動く。ガンツは見逃さない。カーブを切る気だ。証明するように、岩の柱が左に迫っている。
ガンツはバックミラーを通して背後を追いかけてきている幻獣たちを見た。
「……へっ…」
懐かしむような笑みは、一瞬で挑戦的で不敵なそれに変貌した。
がっとハンドルとブレーキを切ってドリフトをかます。ぐるっと一周するように機体を滑らせながら、ガンツは銃を構え、引き金を引いた。
土煙を横に巻き上げながら、5発。幻獣と同じ数。
スリップ寸前の状態を維持たまま、ガンツは岩の内側をショートカットして、賞金首の行く手に回り込む。その間に銃をホルスターにしまい、バズーカを構えなおす。
岩の影から飛び出てきたガンツのバイクに、賞金首がぎょっと血の気を引かせる。
「逃がさねえって言っただろ」
ガンツはやめろと叫ぶ賞金首に向かって、ためらいなくバズーカの引き金を引いた。
「いっそ殺してくれえ…!」
「賞金首は殺さず引き渡せが賞金稼ぎの鉄則でね」
ガンツは涼しそうな顔で言ってやる。賞金首は白い網に身動きを封じられていた。ガンツがぶっ放したバズーカの中身は捕獲用の網だったのだ。
身動きが取れず口が達者になった賞金首に一切取り合わず、ガンツは賞金首の引き渡し場所へとバイクを走らせながら思いを馳せた。
動く獲物を仕留めるのはお前のタレントだ。
しかし、そのタレントを引き出してくれたのは間違いなく自分の父親だ。そのことに感謝しない日はない。
ガンツはホルスターにしまってある銃にそっと触れて、心の中で誇りと感謝を告げるのだった。
-----(2013.11.10)-----
センバさんからのリクエスト「ガンツとそのお父さん(バッツ)」で書いたもの。
前には賞金首。後ろからは数体の幻獣。意外にもバイクのスピードについてきていて離せないことに腹が立つ。
ガンツはバイクのバックミラーを見ながら、銃を構えて何発か撃つ。弾は当たらず、幻獣はまだついてくる。
「チッ…」
思わず舌打ちがもれる。前方を走る賞金首はそれを一瞥するとこっそり逃げるスピードを上げた。気付かないわけがない。ガンツは目をすがめるとバイクの速度を上げる。
荒野でありながら、障害物は驚くほど多い。
巨大な石の柱がぽつぽつと立っていて、カーチェイスならぬバイクチェイスにはイマイチ条件が悪い。さらに、地面が平坦じゃないおかげで標準を合わせるのも一苦労だ。自分も動いていれば相手も動いている。タイミングを見極めるのは難しい。
ガンツは賞金首の背中を睨みつけながら、腹立たしさと同時に父親の笑い声を思い出した。
賞金首を見据えたまま、一瞬眉をしかめて子どもの頃の出来事を思い出す。
『ハハハ! 最初から当たったら化けモンだ!!』
銃を構える姿勢を休めて、むぅと悔しそうに顔をゆがめるガンツは幼いがしかし、ようやく銃に慣れてきたところだった。父親のバッツがその大きな手でわしゃっと頭をかき回してくる。
『止まっている的を狙うのは簡単だし、慣れりゃあ何発でも当てられるようになるもんだ。だがな。賞金稼ぎの仕事として、実際にそんなじっと突っ立って撃たれる奴がいるか?』
『……いない』
『だろ? そこでな、俺は動いている的を狙う練習をしておいた方がいいと思ったわけだ』
木をうまく削って作ったフリスビーのようなものを背後から出して見せて、にやりとするバッツ。ガンツは目を丸くした。
『それを狙うの?』
『あそこにあるターゲットと同じ大きさだぞ。でも、こいつは俺が投げる。投げて、俺が撃てって言ったら飛んでるこいつに弾をお見舞いしてやるんだ。分かるか?』
頷いたものの、最初に投げられたやつは見事に外したところだ。
父親に最初から当たったら化け物だと笑い飛ばされたが、それは逆に幼いガンツの負けず嫌い魂に火をつけた。
感覚で慣れるまで頑張ってみろと言いながら次のフリスビーを空に放つ。ガンツは今までにないほど神経を研ぎ澄ませ、フリスビーの動きに感覚のすべてを集中させた。
父親が撃てと声を張ったのと、ガンツが今ならいけると引き金を引いたのは同じタイミング。フリスビーがぱこんと気持ちのいい音を立てて、割れた。
『……!』
父親が目を瞠る。
ガンツも驚いていた。当たった……、当たった!!
『父さん! 当たったよ!!』
近くにあった樽に銃を置いて、ガンツは父親の懐へ飛び込む。息子の声で我に返って、それをすんでのところで抱え上げた父親は嬉しそうに笑った。
『こりゃあたまげたな! 動く獲物を逃さないそのセンスはお前のタレントだ! こりゃあ将来腕利きの賞金稼ぎになるぞ!!』
最高の褒め言葉に、ガンツはくすぐったくなって父親に抱き着きながら笑った。
前を走る賞金首のバイクがかすかに左右に揺れ動く。ガンツは見逃さない。カーブを切る気だ。証明するように、岩の柱が左に迫っている。
ガンツはバックミラーを通して背後を追いかけてきている幻獣たちを見た。
「……へっ…」
懐かしむような笑みは、一瞬で挑戦的で不敵なそれに変貌した。
がっとハンドルとブレーキを切ってドリフトをかます。ぐるっと一周するように機体を滑らせながら、ガンツは銃を構え、引き金を引いた。
土煙を横に巻き上げながら、5発。幻獣と同じ数。
スリップ寸前の状態を維持たまま、ガンツは岩の内側をショートカットして、賞金首の行く手に回り込む。その間に銃をホルスターにしまい、バズーカを構えなおす。
岩の影から飛び出てきたガンツのバイクに、賞金首がぎょっと血の気を引かせる。
「逃がさねえって言っただろ」
ガンツはやめろと叫ぶ賞金首に向かって、ためらいなくバズーカの引き金を引いた。
「いっそ殺してくれえ…!」
「賞金首は殺さず引き渡せが賞金稼ぎの鉄則でね」
ガンツは涼しそうな顔で言ってやる。賞金首は白い網に身動きを封じられていた。ガンツがぶっ放したバズーカの中身は捕獲用の網だったのだ。
身動きが取れず口が達者になった賞金首に一切取り合わず、ガンツは賞金首の引き渡し場所へとバイクを走らせながら思いを馳せた。
動く獲物を仕留めるのはお前のタレントだ。
しかし、そのタレントを引き出してくれたのは間違いなく自分の父親だ。そのことに感謝しない日はない。
ガンツはホルスターにしまってある銃にそっと触れて、心の中で誇りと感謝を告げるのだった。
-----(2013.11.10)-----
センバさんからのリクエスト「ガンツとそのお父さん(バッツ)」で書いたもの。
更新日:2018-06-05 23:21:38