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オレンジ村のピロン
ついこのあいだまで、風と戯れて愉快そうに踊っていた若葉たちが、ここ何週間かのうちに黄緑色から濃いエメラルド色に変わった。
空は果てしなく高く、限りなく広く、穢れなく青く。
太陽が、地上のものを何一つ残すさずに照らす初夏の朝。
小鳥たちが喜び歌う。
蒼い湖水がきらめく。
ピロンの髪が風になびく。
友人のパドラスと一緒に<聖なる木たち>に会いに行って、 一人で帰ってきたあと、ピロンはオレンジ村で暮らしていた。
オレンジ村はあいかわらずのどかだった。
よその村のごたごたした争いは入り込んでこずに、ピロンは同じ世代の者たちと共に学び遊び、楽しい日々を過ごしていた。
だが、何もかも文句なく揃っているオレンジ村の毎日は、ピロンにとっては物足りなくなってきていた。
いつも新しいものを追い求める若い心には刺激が必要だったのだ。
ピロンはオレンジ村の村長タクトと話しているところだった。
話すと言っても、ご存知のように、オレンジピープルはテレパシーを使うのだから、相手の言葉は頭の中に聞こえてくるだけだった。
“どうだねピロン、君の引き出しはいっぱいになってきたかな?”
“タクトさま、また謎かけですか?
そうですね、わたしの引き出しはごちゃごちゃです”
“新しい引き出しが欲しくなってきたかね?”
“色々なことをたくさん詰め込んでいっぱいになってきたのですけれど、でも私はもっと何か違うものが必要な気がするのです。
それは何かわからないんだけれど、それを入れる引き出しはまだ空っぽで、入れるものを探しにいかなければならないような...”
“それならそれを探しに行けばいいよ。
空っぽの引き出しはいくらでもある。
湧き出る泉の如くね。
君がそれに目を留めさえすればだ”
「心で話すことがずいぶんうまくなってきたね」
「はい、やっとオレンジ・ピープルのようになってきました」
「そのうちに本当に皮膚がオレンジ色に変わるかもしれないよ」
タクトは声を出して笑うと手を振りながら行ってしまった。
“そうだなあ。
私はいったい何を求めているのだろう?
新しい引き出しに入れるものは一体なんだろうか。
どこへ探しに行けばよいのだろうか”
答えに詰まったり何か解らないことがあると、ピロンはよく大切な友達パドラスのことを思い出す。
パドラスは何でも知っていて、ピロンが何かを聞くと、色々と教えてくれたりアドバイスをしてくれたものだった。
“パディー、私一体なにをしたららいいの?”
ピロンはパドラスに話しかける。
パドラスが、オレンジ・ピープルのように心の中で返事をしてくれるかもしれないと期待して。
でもパドラスが遠い白い星へと旅立ってしまってから、そんなことは少しも起こらないのだった。
パドラスが居なくなってから、ピロンは本当に心を打ち明けられる友達がいなかった。
オレンジピープルはみんな親切な良い人たちだけれど、パドラスとは違う。
パドラスと同じような人は誰も居ない。
・・・誰でもそうだよ、一生にたった一人でも本当の友達を持てたら幸運だ。
多くの人はいつも物足りなさや淋しさを感じている。
でもそれが普通の付き合い方なんだ。
決して行き過ぎの付き合いは良くない。
行過ぎない付き合いには、ちょっと孤独がつきものさ。
でも孤独を淋しく思ってはいけないんだ。
それは本当は孤独ではなく、他人とではない自分との付き合いの時間だよ。
結局人間はみな一人なのさ・・・
前にパドラスはそんなことを言ったことがあったけれど、そのときのピロンにはピンとこない言葉だった。
ピロンは群れ咲く小さな花たちの中に座り、一人夢見ていた。
花たちとピロンだけしかいない空間に漂うと、静かな花のささやきが聞こえてくる。
ピロンの魂と花の魂が繋がりあうのだ。
そしてピロンは気づく。
人間の友達はいないけれど、決して一人ぼっちではない。
何故なら目に見えないたくさんのものたちに出会えるからだ。
たくさんのものたちがピロンを思っていてくれる。
それらのものたちの愛を感じてピロンもそれらのものたちに愛を送る。
愛とはステキなものだ。
見えなくても優しく、触れなくても暖かく、聞こえなくても伝わってきて、心を満たしてくれる。
空は果てしなく高く、限りなく広く、穢れなく青く。
太陽が、地上のものを何一つ残すさずに照らす初夏の朝。
小鳥たちが喜び歌う。
蒼い湖水がきらめく。
ピロンの髪が風になびく。
友人のパドラスと一緒に<聖なる木たち>に会いに行って、 一人で帰ってきたあと、ピロンはオレンジ村で暮らしていた。
オレンジ村はあいかわらずのどかだった。
よその村のごたごたした争いは入り込んでこずに、ピロンは同じ世代の者たちと共に学び遊び、楽しい日々を過ごしていた。
だが、何もかも文句なく揃っているオレンジ村の毎日は、ピロンにとっては物足りなくなってきていた。
いつも新しいものを追い求める若い心には刺激が必要だったのだ。
ピロンはオレンジ村の村長タクトと話しているところだった。
話すと言っても、ご存知のように、オレンジピープルはテレパシーを使うのだから、相手の言葉は頭の中に聞こえてくるだけだった。
“どうだねピロン、君の引き出しはいっぱいになってきたかな?”
“タクトさま、また謎かけですか?
そうですね、わたしの引き出しはごちゃごちゃです”
“新しい引き出しが欲しくなってきたかね?”
“色々なことをたくさん詰め込んでいっぱいになってきたのですけれど、でも私はもっと何か違うものが必要な気がするのです。
それは何かわからないんだけれど、それを入れる引き出しはまだ空っぽで、入れるものを探しにいかなければならないような...”
“それならそれを探しに行けばいいよ。
空っぽの引き出しはいくらでもある。
湧き出る泉の如くね。
君がそれに目を留めさえすればだ”
「心で話すことがずいぶんうまくなってきたね」
「はい、やっとオレンジ・ピープルのようになってきました」
「そのうちに本当に皮膚がオレンジ色に変わるかもしれないよ」
タクトは声を出して笑うと手を振りながら行ってしまった。
“そうだなあ。
私はいったい何を求めているのだろう?
新しい引き出しに入れるものは一体なんだろうか。
どこへ探しに行けばよいのだろうか”
答えに詰まったり何か解らないことがあると、ピロンはよく大切な友達パドラスのことを思い出す。
パドラスは何でも知っていて、ピロンが何かを聞くと、色々と教えてくれたりアドバイスをしてくれたものだった。
“パディー、私一体なにをしたららいいの?”
ピロンはパドラスに話しかける。
パドラスが、オレンジ・ピープルのように心の中で返事をしてくれるかもしれないと期待して。
でもパドラスが遠い白い星へと旅立ってしまってから、そんなことは少しも起こらないのだった。
パドラスが居なくなってから、ピロンは本当に心を打ち明けられる友達がいなかった。
オレンジピープルはみんな親切な良い人たちだけれど、パドラスとは違う。
パドラスと同じような人は誰も居ない。
・・・誰でもそうだよ、一生にたった一人でも本当の友達を持てたら幸運だ。
多くの人はいつも物足りなさや淋しさを感じている。
でもそれが普通の付き合い方なんだ。
決して行き過ぎの付き合いは良くない。
行過ぎない付き合いには、ちょっと孤独がつきものさ。
でも孤独を淋しく思ってはいけないんだ。
それは本当は孤独ではなく、他人とではない自分との付き合いの時間だよ。
結局人間はみな一人なのさ・・・
前にパドラスはそんなことを言ったことがあったけれど、そのときのピロンにはピンとこない言葉だった。
ピロンは群れ咲く小さな花たちの中に座り、一人夢見ていた。
花たちとピロンだけしかいない空間に漂うと、静かな花のささやきが聞こえてくる。
ピロンの魂と花の魂が繋がりあうのだ。
そしてピロンは気づく。
人間の友達はいないけれど、決して一人ぼっちではない。
何故なら目に見えないたくさんのものたちに出会えるからだ。
たくさんのものたちがピロンを思っていてくれる。
それらのものたちの愛を感じてピロンもそれらのものたちに愛を送る。
愛とはステキなものだ。
見えなくても優しく、触れなくても暖かく、聞こえなくても伝わってきて、心を満たしてくれる。
更新日:2018-06-07 12:05:59