- 3 / 10 ページ
出会う
1号館8階の汚室は、4畳半くらいの広さだ。そこに、洗い物をするシンクが2つ、乾燥機、尿瓶をオートで洗ってくれる洗浄機、畜尿棚といったモノが大物で、あとはゴミ箱2種類にバイオハザードマークのはいったダンボール箱が置かれている。結構、混み混みだ。
その汚室は、最近空気が重い。
酸素が薄いというか、重力が余計にかかっているような、というか. よどんで不快という感じはしないのだが、とにかく重い。日頃 蓄積してしまっている疲労が背中から抽出されているような感覚がして、そして汚室を出ると、体が軽くなる。空気は重いのだが疲れが取れるという、不思議部屋となっているのだ。そのウワサは看護師達にすぐに回り、にわかに汚室が憩いの場所となっている。
ただ そこにいるだけだとサボッていると言われてしまうために、率先して洗い物もしてくれるのだが、不慣れで手際が悪いために かなり扱いが雑で、いろいろと派手にぶちかまして行くのだが、ナゼか床は汚れる事はない。汚れる事がないので大抵の看護師は、やらかしている事に気が付かないでいる。
そんな光景を、千紗はラッキーw と、始めは思っていたが、たまたまお粉以外の大物が、あの壁に向かって空中を移動していくのを見てしまって以来、壁のキツネのキッペイを観察するようになった。あれ以来、キッペイの姿には変化はない。点3つだったのは記憶違いだろうか、と思う時もあるのだが妙な空気の流れを目撃して以来、その流れを作っているはキッペイで、姿が変わった事も事実 と、過程してみるとそれはそれで説明がつくような気がする。
「キッペイ。あんたがやってるの?もしかして、食べてるとか言う?」
壁のキツネの丸い目は、千紗を見つめている。
ふいに、そのキツネから千紗に向かって何かが飛び出してきた。見てみると、手に小さな褐色の粘着物がくっついている。
「あ、やっぱりってヤツか? なーんて言ってみたりするけど そんな訳ないよね。でも、何か変なんだよなー。」
と、飛ばされてきたモノを洗い落とすと、ついでにペーパータオルを数枚とりながら
「やっぱ 掃除して消しちゃおう。」
と言うと、キツネの方へ向きを変えたタイミングで、千紗の動きが止まった。不自然に止まった千紗を、壁のキツネは反撃のチャンスを探るように凝視している。すると、
「・・・ 助けて ・・・ 婿殿、助けて 」
少ししわがれたような声が、絞り出すように千紗の口から発せられた。
-嫁殿か!?
壁のキツネも予想してなかった声に驚いた。
「・・・婿殿、私にも作った力を分けてちょうだい。」
-そこに居てくれたんだな。辛くはないか?痛くはないか?
-嫁殿が望むのなら。嫁殿が助かるのなら何でもする
すると、壁から圧縮されたような霧状の気体が千紗に向かって流れ出しすと、ペーパータオル越しに千紗の指に吸い込まれていった。
-嫁殿、助けるからな。それまで、耐えてくれ
壁のキツネは、壁から少し浮き出しているような状態だった。
「・・・は? 何か言った? ん? 呼ばれたのかな。」
今度は千紗の声だった。ポケットのピッチを確認していると、看護師が入ってきた。
「誰か呼んでました?」
「んー あ、そういえば外来から降りてきていい って電話が入ってましたよ。そのうち声かかるんじゃないかな。」
「わかりました!」
何かをしようと思ってたのに何だったのか忘れて微妙な気持ちだが、持ってたペーパータオルはそのままゴミ箱に捨て、汚室から出て行った。
キツネの方も、壁から浮き出ている事に驚きつつ そっと元に戻った。
-危なかった。 我も消されるかと思った・・・
しかし、嫁殿は生きていてくれた事が分かったのは幸いだった
-もっと力を得れば、ここから動けるのかもしれんな
さっきのように・・・ ん? どうしたらそうなったんだったかな
-嫁殿 どうにかして助けるからな。
そしてまた、キツネは静かに空気清浄機になった。
患者さんの車イスを押しながら、1号館から横つたいに2号館、3号館まで行き、エレベーターに乗って2階まで降りると、お昼近くなっているにも関わらず外来はまだまだ賑わっていて、ある種独特な活気に満ちていた。病棟では、眉間をこわばらせ何かを耐えているような表情をしている患者さんも、採血を待っている人達の前を通る時は、緊張を緩め凛とした顔を作っている。
「斉木さんです。お願いします。」
「終わりましたら、お迎えに参ります。」
と千紗が声をかけると、軽く微笑みながら会釈を返してくれた。
パジャマ以外の服を着た人達に交ざり、病み込む前の記憶を取り戻したかのように、斉木さんは病棟にいる時よりもキレイに見えた。
その汚室は、最近空気が重い。
酸素が薄いというか、重力が余計にかかっているような、というか. よどんで不快という感じはしないのだが、とにかく重い。日頃 蓄積してしまっている疲労が背中から抽出されているような感覚がして、そして汚室を出ると、体が軽くなる。空気は重いのだが疲れが取れるという、不思議部屋となっているのだ。そのウワサは看護師達にすぐに回り、にわかに汚室が憩いの場所となっている。
ただ そこにいるだけだとサボッていると言われてしまうために、率先して洗い物もしてくれるのだが、不慣れで手際が悪いために かなり扱いが雑で、いろいろと派手にぶちかまして行くのだが、ナゼか床は汚れる事はない。汚れる事がないので大抵の看護師は、やらかしている事に気が付かないでいる。
そんな光景を、千紗はラッキーw と、始めは思っていたが、たまたまお粉以外の大物が、あの壁に向かって空中を移動していくのを見てしまって以来、壁のキツネのキッペイを観察するようになった。あれ以来、キッペイの姿には変化はない。点3つだったのは記憶違いだろうか、と思う時もあるのだが妙な空気の流れを目撃して以来、その流れを作っているはキッペイで、姿が変わった事も事実 と、過程してみるとそれはそれで説明がつくような気がする。
「キッペイ。あんたがやってるの?もしかして、食べてるとか言う?」
壁のキツネの丸い目は、千紗を見つめている。
ふいに、そのキツネから千紗に向かって何かが飛び出してきた。見てみると、手に小さな褐色の粘着物がくっついている。
「あ、やっぱりってヤツか? なーんて言ってみたりするけど そんな訳ないよね。でも、何か変なんだよなー。」
と、飛ばされてきたモノを洗い落とすと、ついでにペーパータオルを数枚とりながら
「やっぱ 掃除して消しちゃおう。」
と言うと、キツネの方へ向きを変えたタイミングで、千紗の動きが止まった。不自然に止まった千紗を、壁のキツネは反撃のチャンスを探るように凝視している。すると、
「・・・ 助けて ・・・ 婿殿、助けて 」
少ししわがれたような声が、絞り出すように千紗の口から発せられた。
-嫁殿か!?
壁のキツネも予想してなかった声に驚いた。
「・・・婿殿、私にも作った力を分けてちょうだい。」
-そこに居てくれたんだな。辛くはないか?痛くはないか?
-嫁殿が望むのなら。嫁殿が助かるのなら何でもする
すると、壁から圧縮されたような霧状の気体が千紗に向かって流れ出しすと、ペーパータオル越しに千紗の指に吸い込まれていった。
-嫁殿、助けるからな。それまで、耐えてくれ
壁のキツネは、壁から少し浮き出しているような状態だった。
「・・・は? 何か言った? ん? 呼ばれたのかな。」
今度は千紗の声だった。ポケットのピッチを確認していると、看護師が入ってきた。
「誰か呼んでました?」
「んー あ、そういえば外来から降りてきていい って電話が入ってましたよ。そのうち声かかるんじゃないかな。」
「わかりました!」
何かをしようと思ってたのに何だったのか忘れて微妙な気持ちだが、持ってたペーパータオルはそのままゴミ箱に捨て、汚室から出て行った。
キツネの方も、壁から浮き出ている事に驚きつつ そっと元に戻った。
-危なかった。 我も消されるかと思った・・・
しかし、嫁殿は生きていてくれた事が分かったのは幸いだった
-もっと力を得れば、ここから動けるのかもしれんな
さっきのように・・・ ん? どうしたらそうなったんだったかな
-嫁殿 どうにかして助けるからな。
そしてまた、キツネは静かに空気清浄機になった。
患者さんの車イスを押しながら、1号館から横つたいに2号館、3号館まで行き、エレベーターに乗って2階まで降りると、お昼近くなっているにも関わらず外来はまだまだ賑わっていて、ある種独特な活気に満ちていた。病棟では、眉間をこわばらせ何かを耐えているような表情をしている患者さんも、採血を待っている人達の前を通る時は、緊張を緩め凛とした顔を作っている。
「斉木さんです。お願いします。」
「終わりましたら、お迎えに参ります。」
と千紗が声をかけると、軽く微笑みながら会釈を返してくれた。
パジャマ以外の服を着た人達に交ざり、病み込む前の記憶を取り戻したかのように、斉木さんは病棟にいる時よりもキレイに見えた。
更新日:2018-08-07 21:36:41