• 1 / 4 ページ

方技官・改 第一話・妖猫

 内閣官房機密費はその性格上、オープンにできない費用とみなされ、会計検査院も調査対象にしていない。一般的には、国会の審議を円滑に進める為の接待費と見られているが、実はそれ以外に驚愕の経費がここから捻出されている。

 例えば、明治時代まで中務省に含まれていた組織の費用で、陰陽寮(陰陽道に基づく呪詛を行う)の他、我々封魔方(国家に災いをもたらす妖鬼を武器を用いて倒す)の方技官に支払われる給与と経費等だ。敗戦時、GHQの追求を逃れるために内閣官房付となったが当時は無給で宝剣類を一部博物館に売却することで生計を立てていたという。

 だが今ではこの仕事の重要性が理解され、比較的潤沢に予算が回される。無論、それなりに苦労はさせられるが……。


「八柱方技官、休暇中の処、悪いが急な案件が出きたので現地に飛んで欲しい。詳しい内容は機内で説明を受けてもらいたい」

 前回の事件が片付き一週間の休暇をもらって恐山の麓にある自宅でくつろいでいた俺の元に事務担当の伊坂副長官から呼び出しがかかった。

 一般の技官と異なり、精神面での疲労が多い方技官の場合、大きな仕事の後は自身の丹田型と合ったパワースポットで休息を取ることが許されている。

 俺の場合は恐山。麓にあった旧家を買い取り、ホームバーや現在では唯一となったSTERN Pinball社製のピンボール、ジュークボックス、ビリヤード台を設置し地元ホテルの女子従業員や遠く弘前大の女子大生を呼んで連日パーティを開くことで英気を養っていた。そんな中かかってきた不粋な連絡だった。

「十朱補佐官では無理な案件なんですか?」

 俺は不満げに言った。

「官房長官の選挙区で起きた案件とだけ言っておこうか」

 伊坂副長官は短く答えて電話を切った。

 そう言われると断れない。一般の役職と違い我々の部署では長官の機嫌を損ねると来年度の予算が大きくカットされることもありえるからだ。

 俺は屋内を下着姿でくつろぐ女達を早々に追い出し、愛車BMWi8ロードスターに乗り込んだ。

更新日:2018-05-24 00:15:03

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook