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真実

男は、警官の姿を確認すると慌てて駆け出てきた。

車上荒らしだと思ったのだろう、車に駆け寄り、

玄関灯の光を頼りに車体の傷を探しはじめた。

「ご主人ですか」警官が言った。
「ええ、まあ」

男は上の空で答え、車を調べ続けている。


警官の一人が、男と一緒に車を確認しだした。

もう一人は、相変わらず俺の腰を掴んで離さない。

こういう時のために、二人一組でパトロールするのかと分かった気がしたが、

それを、例えば大学の連中に語ったところで、自慢にもなりゃしない。



不法侵入、自転車泥棒、車上荒らし……。

もういいや。どうにでもなれ――。


俺の腰を掴んでいる警官が、自転車のかごから花火を抜き取った。

販売したしるしのテープを見つけ、警官は残念そうだ。

「万引きじゃねえから!」

俺の怒鳴り声に、

「ん?」

男が顔を上げて俺を見た。「棚橋?」

「え? 緑川! なんで緑川がセンセーんちに居んだよ!」

俺たちは同級生だ。

といっても、緑川は留学していたから、年は俺よりも一つ上になる。

「結婚すんだよ、俺と志穂」
「はぁ? 冗談だろ?」
「――お巡りさん、こいつ、友達なんです。花火やろうって呼んだんですよ」

緑川が機転を利かせた。すると、俺の腰を掴む警官の力が緩んだ。

「なんだ、すぐ言ってくださいよ。――キミも、この家と知り合いなんだったら、言わないと」

警官は笑顔まで見せ、パトカーに戻って行った。

「助かった……」という安堵の気持ちは、

さっきの緑川の台詞にすぐに覆い潰された。

「結婚て、嘘だよな……」
「嘘ついたってしょうがねえだろ。ところでお前は、何してんのここで」

「私が呼んだのよ!」志穂が出てきた。
「中に居ろって言っただろう」

緑川が志穂の肩に手をかけた。そのまま抱き寄せようとしたが、

志穂は体を捻って拒絶した。



更新日:2018-05-16 11:27:21

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