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秘密

キミは、とても歌がうまいんだ。

スピーカーからの歌声に合わせて、綺麗な声でMOONを歌った。

終わって思わず拍手した僕に、キミは、

ずっと居てあげてもいいけど? と言ってから、

だめか、とペコちゃんみたいに舌を出して笑った。

「いいに決まってるじゃないか」

「こんな狭い部屋なのに?」

「人間率は高い方が寂しくないし」

「じゃあ、コンビニでアレを買ってきなさい」


そんなことを言われてしまうと、

僕は真面目な大学生だったことを覚えていられなくなる。

明日提出の課題も必修の予習も頭から吹っ飛んでしまい、

キミの洋服の中のことにすり替わってしまった。


「灯りは全部消してね」

僕は夢中で、時々、キミに嫌われないようにしなきゃ、

と思うものの、初めてのそのことは、

あっという間に終わってしまった。


僕は、「課題があるんだ」と格好つけて言い、ベッドから出た。

キミもベッドから出てシャワーを浴びに行った。


僕は氷をかじる癖がある。

冷蔵庫を開けようとしたその時、

僕に魔が差した。

ちゃんとドアを閉めなかったキミが悪いんだよ……、

と僕は言い訳を胸に抱いて、ドアの隙間に目を合わせた。

暗闇では見ることのできなかった無数の痣が、

キミの肌を覆っていた。




今夜もキミは灯りを消した。


もしかして、

また撲たれたんじゃないだろうね。

更新日:2018-04-21 11:23:30

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