• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 3 / 20 ページ

2

 いつも眠って過ごした。

カーテンも開けずに、昼中。

灯りも点けずに、夜中。

機能を失った携帯電話を抱いて。



彼の姿が薄れてしまいそうで、他のなにも見たくなかった。

彼の声が消えてしまいそうで、他のなにも聞きたくなかった。

少し傷んだ前髪の感触を思い出し、涙を流した。

喉の奥で響くような深い声を想い、涙を流した。



そうやって泣くことが、使命だと思っていた。



 それなのに、父は私を罵った。

仕事から帰ると扉を開け、

「お前は馬鹿だ。死んだも同然でいるなら、いっそ死んでしまえ」



 母は私を干渉した。

いつも唐突に扉を開け、

「食事しなさい、ベッドから出なさい、窓を開けなさい」



 幼い弟は犬を拾ってきて、

「おねいちゃん、お散歩いきましょ」と扉を叩いた。





 やめて、黙って!
 
 拓海が消えちゃう――。









 そして、消えてしまった。



 風化。

そんなこと、あり得ないと思っていた。

永遠に、深く、拓海を想っていられるはずだった。

顔も、声も、本当に忘れてしまうなんて、

切なさも、苦しみも、まるで消えてしまうなんて、

あり得ないと思っていた。



 心はどこへ行ってしまったの。



どこかへ隠してしまう方が楽だから、

人はきっと、それを仕舞って、

そして仕舞い失くしたようにごまかして生きる。

日常に追われ、

誰かのために生きて、

恋なんていにしえの物語だよと笑って、死んでいく。



私も拓海を過去へ仕舞い失くして、

世の中に倣う。



結婚が決まった。

更新日:2018-03-30 09:56:20