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小説

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31.厚氷割ったら歓喜童子かな(川崎展宏)〜

31.   厚氷割ったら歓喜童子かな
        (あつごおり わったらかんき どうじかな)
          川崎展宏

 作者は呉の人であるので、厚氷割りは子供の頃経験していなかったのだ。大人になってから、寒い地において地元の子が氷割りをしている場面に出くわして参加したのだろう。子供の遊びに割り込んで足元の石をつかんで氷割りを楽しんだに違いない。それとも厚く張った氷を見て、できなかった氷割りをしたくなったのかもしれない。

 この句は、あたかも小学生たちが道端で氷割りをしているように描いているが、本当のところは作者自身が歓喜の気分を味わってるのだ。なぜなら普段氷割りをしている子供は面白がることはあっても歓喜の表情をしたり、歓喜の声を上げることはないからだ。
 作者は自分の声に少し驚いて、若干照れくさく恥ずかしくなったのだ。こんな句を作れるユーモア俳人がいることにホクサイマチスは歓喜の声を上げたい。

 (かわさき てんこう、本名ではのぶひろ、1927年 - 2009年)は、国文学者でもあった。)




32.  雨ふるふるさとははだしであるく 
        (あめふる ・・・・・・・・・・)         
           種田山頭火

 雨が降って庭の土が柔らかくなり、土の香りが立ちのぼる。庭から田んぼに出て草原に至る。故郷の土は思い出が深く、匂いまで覚えているものだ。魚が川の水の匂いを記憶しているのと同じである。
 作者は故郷に帰ってみて、あまりの懐かしさに嬉しくなった。そうこうするうちに雨が降り出し、嬉しさが倍加する。雨が自分を歓迎して降り出したように思いこむ。裸足になって素足踊りを踊りだす。足が勝手に動く調子のいい「雨ふるふるさと」音頭である。子供時代は裸で雨の中で踊ったものであった。足の裏は昔遊んだ土の感触を覚えていた。

 作者の足は裸足で、心も裸足になっている。飾ることは全く不要であり、素のままでいいから気持ちは子供に戻る。

 この句を目視すると、「ふる」が重なっていて、「ははだし」のなかには「は」が重なっている。「はだし」も楽しい言葉である。まさに歩きたくなる文字の並びが見えるのだ。雨の文字も点々が4個入っていて何やら楽しい雰囲気を作っている。
 山頭火のことは詳しくは知らないが、お祭り騒ぎが好きなタイプなのかもしれない。しりとり俳句を作ってしまうのであるから。そして子供のような無邪気さが溢れている人なのだろう。





33.  あめんぼう君なら渡れる佐渡島 
        (・・・・・きみならわたれる さどがしま)  
          土茶(どさ)

 勝手なことを言われてアメンボウは困っているであろう。しかし、土茶の推察力は大したものだ。池で浮き泳ぎを見せた泳ぎの達人、いや泳ぎのプロのアメンボウならば日本海を棒で漕ぎ渡れると考えたのだ。
 アメンボウは疲れを貯めることがないからだ。ちょいと進んではすぐに休むくせがあるのだ。このペースを守れば、必ずや新潟から佐渡まではいつかはたどり着けると作者は考えた。なぜなら佐渡は「さっと渡る」という言葉になっている。

 それにしても作者は妄想能力が豊かで、楽しむのがうまい。実はこの作者は現存する俳人の中では、ホクサイマチスにとっては期待の星の一人なのだ。もっとも期待していた貨物船は2000年に他界し、ついで期待していた風変わりな変哲(小沢昭一)も2012年に死んでしまった。これから面白俳句を作っている人をもっと発掘してゆかねばならない。 
 ちなみにこの作者は人間国宝になった落語家の柳家小三治氏で、「東京やなぎ句会」の創立メンバーである。とぼけて地味な俳句のように見せかけるうまさがある。




34.  あめんぼうを撥ねたる痕の数多なる
       (・・・・・はねたるあとの あまたなる)
         鴇田智哉(ときた ともなり)(昭和44年、「オルガン」)

 初夏になるとアメンボウが大発生する。水面に雨が降っているかのように点々ができる。気温が高くなって汗ばんでいるのも忘れて、顔を下げてアメンボウのボート漕ぎ競争を見ていることがある。

 この作者の観察眼は変わっている。太陽で焼けた水面からアメンボウは足を素早く挙げて空中で冷やすという見方は普通だろう。この句は水面がアメンボウを撥ね飛ばすと見ているのだ。水の表面張力によって水面に降りてきた身の軽いアメンボウを跳ね上げるのだ。この連続運動によって、アメンボウはボート漕ぎ状態になるという。面白い見方である。
 物事や現象はどこを切り取るかによって見え方も判断も違ってくるが、俳句でこれをやられるとは思わなかった。非常に愉快になる。

更新日:2018-07-01 07:16:06

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