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小説

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10.赤き日の海に落込む暑かな(夏目漱石) 〜

挿絵 709*466

    ホクサイマチス作「不安な船出」

10.   赤き日の海に落込む暑かな 
       (あかきひの うみにおちこむ あつさかな)
          夏目漱石

 ロンドンに客船で留学する漱石は、腹を壊しながら中東の紅海までやっとの思いでたどり着いた。丁度全海路の半分である。それにしても暑い暑い。ここは太陽の光で焼けて赤くなっているから紅海なので、暑いはずである。その上、この海に赤く燃えている太陽が沈んで行くのだから、水温はさらに高くなったような気がすると、もうろうと本気で考える漱石。

 発熱して船のダンス会にも参加できず、どんよりとした空気の中でゆっくり笑う漱石がいる。こんな紅海でも来たことで後悔はないと。こんな冗談でも考えていないとやりきれないのだろう。「俳句はレトリックがすべて」という漱石ならではの句である。

 「落込む暑さ」の「落込む」は漱石の気が「落ち込む」に掛けてある。この時他に作っていた句に「日は落ちて海の底より暑哉」がある。この他に途中まで作っていた句がもう一つあった。未完成のままの「海やけて日は紅に・・・・・」の句である。あの天才の頭脳に言葉が浮かばなかったのだから、よほど体調が悪かったことを裏付けている。
 そんな漱石は後日回復してから句作を続けることができたはずだが、それをしなかった。それはあまり上五と中七が良くなかったからだとみると面白い。

 
 

11.   暁や尿瓶の中のきりぎりす
       (あかつきや しびんのなかの・・・・・)
          内藤鳴雪

 松山出身者の学生ために東京に建てた寄宿舎の舎監であり、子規の年上の俳句仲間であった鳴雪が子規の病床を見舞った時の句である。子規は布団の近くにいつでも排泄できるように尿瓶を置いていた。夜中に部屋に入り込んできたコオロギは使用していない尿瓶を見つけて中に入り込んだ。子規はいざ使おうとしたときに尿瓶の中に黒い虫が入っていることに気がついた。

 子規はコオロギに気がつかなかったならどうなったかと考えた。危機を感じたコロギに齧られたかもしれない。コオロギの方も侵入者にさぞや驚いたことであろう。危うく水攻めにされるところであったからだ。

 この場に立ち会った鳴雪はこの出来事をさっそく俳句にまとめたのだろう。ところでコオロギは瓶の中でも鳴いていたのだろうか。鳴いたのであれば、自分の声が磁器製の丸い壁に響いていい声に聞こえたことであろう。

 コオロギは冬の暁に寒さを感じ、どこか暖かいところを探していたのだろう。庭から土間を伝って子規の部屋に入り込んだコオロギは、尿瓶を放置された甕と勘違いして中に入り込んだのだろう。

 子規の21歳も年上の鳴雪は、建屋の見回りを兼ねて子規の部屋を訪ねた。子規は自分の部屋で精力的に仕事をしていたが、部屋の中は丸めた反故紙で足の踏み場もないくらいであったという。これが肺病を悪化させた。鳴雪は地元の秀才の一人であった子規の病気が気になっていた。子規の部屋に来た際に、尿瓶の交換をするつもりであったのだろう。
 

更新日:2018-07-01 07:11:53

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