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2018年01月17日(水) 22時00分00秒

テーマ:空想小説




「たかちゃんは、店継ぐのか?」、



珍しく店を手伝っていた夏の暑い日に

常連のおっちゃん達に聞かれた。



「僕には無理だよ」、



そう言ってはぐらかすと



「何かやりたいことでもあるのかい?」、



うちの店には不釣り合いな紳士なお爺

さんがじっと僕の目を見て聞いてきた。





「今はまだないですけど・・」、



正直に、でもちょっと濁した僕の様子に



「けど?」、



もう一度、お爺さんは聞いてきた。



「それを見つけられたらいいなあって

やりたいことを仕事にできたらいいな

あっって、思います」、



ちらっと、煙にまみれて焼き鳥を焼く

父さんの姿を見ながら答えると



「見つけられるといいね」、



お爺さんはにっこり笑って、おかわり!

って空になったジョッキを僕に渡した。





それから数日して、母さんが



「これ、先生がくれたんだけど」、



そう言って僕の前にたくさんのA4の

封筒を並べた。





「これ、全部ね、奨学金制度のある

大学なんだって、たかちゃんの成績

ならこのどれでもきっと推薦もらえる

だろうって、昨日の夜に先生が持って

きてくれたのよ」、





高校を出たら働くもんだと思っていた

僕にとって考えてもいない話で





「もちろん生活費は自分でバイトして

頑張らないといけないけど、

ごめんね」、



母さんは、ちょっと悲しそうに笑った。

















「母さん、大学はやっぱり行かないよ

今ならまだ、手続き前だから・・」、



父さんの煙を見上げながら言うと





「ううん、こんな時だからこそ、たかちゃん

頑張らなきゃだめだよ、諦めるのは

何時でもできるんだから」、



母さんも煙を見つめたままで‥









そして、僕は大学生になった。

更新日:2018-02-16 10:38:58

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